【写真1】ズノー50mmF1.8レンズ付きZunow。唯一完動ボディを持つINOさんから拝借(画像をクリックすると大きくして見ることができます)
ズノー(Zunow)といえばキヤノン50mmF0.95と並び戦後日本の誇る大口径レンズの代名詞のようなレンズで、ライカスクリューマウントのタイプ“ズノー50mmF1.1”がよく知られています。ところが今回ここで紹介するのは、一眼レフ用の標準レンズ50mmF1.8なのです。この“ズノー50mmF1.8”は、1958年にズノー光学工業が、製造した一眼レフカメラ「ズノー」に付いていたものです。標準レンズは58mmF1.2とこの標準50mmF1.8レンズの2種でしたが、50mmF1.8は、当時一眼レフ標準レンズの焦点距離は55mm・58mmが主流であったのに対し、距離計連動機と同じ50mmとし、ボディは、今ではあたりまえとなっている完全自動絞りを初採用。またペンタプリズムの底面に曲率を持たせコンデンサーレンズの機能を加えてペンタプリズム頂部を低くくするなど、先進の技術が搭載された大変意欲的な一眼レフでした【写真1】。その一方でカメラの外観、パッケージ、取扱説明書などのデザインを、GKインダストリアルデザイン研究所という外部デザイン事務所に依頼したのも新しい試みでした。
そのズノーですが、発売とともにさまざまなトラブルに見舞われて、最終的に市場に出回ったのは数が少ないというのです。ところが僕の周りには、不思議とズノーを持っている人が複数いるのです。そのようなあるとき、クラシックレンズ遊び仲間のHさんが「ズノー50mmF1.8」をライカスクリューマウントレンズに改良したから使ってみませんかというのです。Hさんいわく、レンズだけを持っていたけど、ボディがなかったから距離計連動のライカスクリューマウントに改造しというのです。当然、ライカスクリューマウントならアダプターを使えばMマウントになるわけですから、複数のライカスクリューマウントの“ズノー50mmF1.1”を使った身としてはぜひ使わせてほしいとお願いしました。
【写真2】ライカスクリューマウントに改造された「ズノー50mmF1.8」(画像をクリックすると大きくして見ることができます)
【写真3】比較したAiニッコール50mmF1.8と撮影に使ったライカM(画像をクリックすると大きくして見ることができます)
そして手元に届いたズノー50mmF1.8が【写真2】です。どのように使ってみようかとあれこれ考えましたが、まずはフィールドに持ち出して普通に使ってみようとなりました。さっそくライカMに取り付けて使ってみたのですが、どうも面白くないのです。開放絞りで撮影すると甘さを感じ、少し絞り込むとごくごく普通に写るのですが、いまひとつ描写に特徴がないのです。そういえば、やはりライカスクリューマウントに改造したズノー50mmF1.8を所有するOさんは、僕が使う前から「写るけどあまり面白くないですよ」と言い切っていたのです。どうやら僕は、ライカスクリューマウントのズノー50mmF1.1と同じような暴れた描写が得られるのではないだろうかという期待があったようなのです。これはみごとに外れて、Oさんの忠告通りになったのです。
そんなわけで撮影への意欲をなくし、少しばかり中休みをとっていたのですが、あまり長時間放置しておくのもHさんに申し訳ないと思い、それならば同じ焦点距離・開放F値の「Aiニッコール50mmF1.8」と比較してみようとなったのです【写真3】。カメラは同じ性能を持たせるようにと、ズノーに合わせ、ニッコールレンズもマウントアダプターを介してライカMに取り付けて撮影しました。このズノー50mmF1.8とニッコール50mmF1.8は、焦点距離・開放F値が同じであるだけでなく、たぶんどちらも5群6枚構成のガウスタイプであり、仕様的にはかなり似通ったところがあります。実際比較撮影してみると、いくつかのことがわかってきました。比較撮影は、各レンズを同じ被写体で、同じところにピントを合わせ、絞り開放とある程度絞ったりと、複数のシーンで行いました。結果は、どうでしょう。実に単純明快な結果がでました。絞り開放では、圧倒的にニッコールのほうがシャープであり、ズノーは甘いのです。これは、同じ場面で2本を比較しているからわかることです。もし比較しないで見ると、開放絞りはこんなものだと思ってしまうと、差はわからなくなります。