●A3ノビとA0プリントの結果から
まず≪A3ノビプリント≫を見てみましょう。いわゆる半切・全紙くらいのサイズのプリントを鑑賞する距離からは、見る人の視力にもよりますが、まず3枚の画質差はわかりません。撮影場面は、建造物は不動なのですが、ハイレゾショットでは、中央の英国国旗が風にたなびいて、コマ撮りされたような描写がすぐわかりますが、周辺の木などは動いていても、目を凝らしてよく見ないとほとんどわかりません。フォーカスポイントはいずれのカットも建物中央の上部のエンブレムです。このエンブレムと、その周辺の壁の解像感、コントラスト等をよく見ると、何となくハイレゾショットはコントラストがあるかなという感じがします。A3ノビに対して解像度的には通常撮影が約270dpi、ハイレゾショットとフォトショップの画素伸ばしのカットが約430dpiということで、どちらもインクジェットプリンターが必要とする解像度を十分にクリアしています。写真的に画像がむりなく見える解像度の下限としては、僕の個人的な経験ではプリントの絵柄にもよりますが、120dpiを超えたあたりでインクジェットプリンターは、一般的には視覚的にジャギーのないプリントが得られます。もっとも、今回の3つのファイルとも、解像度的には270dpiと430dpiと視覚的なプリントの解像度限界を十分にカバーしていることです。それではプリントが120dpiを超えていればすべて同じような画質に見えるかというとそうではなく、専門家にお伺いしたところ、インクジェットプリンターの場合は、プリント解像度が高いほど細かいところまで見え、約600〜700dpiぐらいまで、個人差はあっても人間の目は感覚的に解像感の違いを認識できるのだというのです。
引き続き≪A0プリント≫を見てみました。撮影場面は、建造物は不動なのですが、ハイレゾショットはスローシャッターのようなものなので、中央のユニオンジャック旗は当然のこととして、周辺の木などもここまで大きくすると、わずかな木の葉や木の枝などの動きも気になるのです。特に、建物の左右にある剪定されたモミの木の枝なども、モアレのような気になるパターンが動きにより生成されています。この部分は大きく伸ばさなくては認識できないレベルですが、基本的には風景写真にはハイレゾショットを使えないということになります。もっともこの写真のように中央の旗だけ動いている画面を意図的に作り出すこともできるわけですから、プリント拡大率と組み合わせれば、独自な写真表現を作り出すこともできるわけです。
【写真5】三脚にカメラを据えてハイレゾショットで動く車を入れて撮影。左端の車が8回マルチ露光されています。焦点距離12mm、絞りF5.6・1/1250秒、ISO200(画像をクリックすると大きくして見られます)
【写真6】1600万画素通常撮影(プリント解像度88dpi):作例1のA0プリントを部分的に再撮影(画像をクリックすると大きくして見られます)
【写真7】40Mハイレゾショット(プリント解像度139dpi):作例2のA0プリントを部分的に再撮影。微妙ですがこの画像が、解像感、質感とも一番良いのです。(画像をクリックすると大きくして見られます)
【写真8】フォトショップで画素伸ばし処理(プリント解像度139dpi):作例3のA0プリントを部分的に再撮影。(画像をクリックすると大きくして見られます)
とはいっても、ハイレゾショットの撮影にあたっては、手持ち撮影は不可で、しっかりと三脚を立てて、カメラのブレが止まった所でシャッターを切らなくてはならないことです。カメラにはカメラ自体がぶれているかどうかを表すインジケーターがあり、静止した状態でシャッターを切って処理を終えるのに1秒弱を必要とします。また自然界にある、草木が完全に停止した状態でスローシャッターを切り、被写体を静止させることは、ほとんど不可能に近いことで、草花のクローズアップ撮影をしたことがある方なら、どなたでもわかることです。したがって『オリンパスOM-D E-M5 MarkII』のハイレゾショットは、スタジオ内など室内での静物の撮影に向くモードであることがわかります。そこであえて、三脚に載せて、走ってくる車を撮影したのが【写真5】ですが、静止画に向くことは一目瞭然です。
ではハイレゾショット4000万画素と通常撮影1600万画素と、どのくらいの画質差があるかというとかなり微妙です。今回のA3ノビプリントでは一般的な鑑賞距離では、個人差もあるでしょうが、なかなかその差はわかりませんでした。そこで、可能な限り大きなプリントということで、A0にプリントしてみましたが、目を近づけて見ると『40Mハイレゾショット>通常撮影でフォトショップで画素伸ばし>通常撮影』いうような関係を見出すことができるのです。
むしろ、今回の比較撮影では、画面サイズでは4/3というハンディを負いながら、思いのほか通常撮影の1600万画素のプリントがかなりよいのです。これは、プリンターのスムージング機能なども効果的に働いた結果だとは思うのですが、撮影したカメラの元データを単純にモニター上で拡大して見たのでは写真本来の画質はわからないというわけです。
かつてフィルムカメラの画質では、画面サイズ、フィルムの解像力、撮影レンズの解像力、引伸機(引伸ばしレンズ)の解像力、プリント拡大率などが大きく影響するとはよく知られたことですが、デジタルカメラの場合もほぼ同様ですが、実はデジタルカメラでは満たされた撮影条件では画面サイズ以前に撮像素子の画素数の能力がいかんなく発揮され、さらに同じ画素数でもBayer方式のように画素ユニット記録方式なのか、Foveonのような垂直記録方式なのかなど記録方式によっても画質が異なることもよく知られています。
デジタルカメラの高画素化は、35mm判フルサイズで3600万画素のニコンD810、ソニーα7Rに対し、5000万画素のキヤノンEOS 5Ds/sRがあります。そこにオリンパスの4000万画素ハイレゾショットが加わったのです。しかし今回の比較でもわかるように、実際のプリントにするとその差は判別しにくくなるのも事実です。そこでプリンターファクターを加えるとどのくらいの画像になるのか、現物A0プリントのエンブレム部分をマクロレンズを使い再撮影して示したのが【写真6・7・8】です。写真6は通常撮影1600万画素(プリント解像度88dpi)、写真7は40Mハイレゾショット(プリント解像度139dpi)、写真8はフォトショップリサイズ(プリント解像度139dpi)のプリントです。もちろん画質が十分に再現されているとは言いませんが、ここまで大きく伸ばしても、その差は微妙であることはおわかりいただけたと思います。そして、データだけでディスプレー上だけでデジタルカメラの画質を判断する難しさがここにあります。
そして何よりも、A0という大判の横1.3m×縦1mぐらいに引伸ばすチャンスというか必然性がプロを含め一般ユーザーにどれだけあるか、ということになるのです。デジタルカメラには、適切な拡大率に対しての画素数と画面サイズの関係があると思うのです。オリンパスOM-D E-M5 MarkIIの場合には、1600万という画素数でも必要十分な画質だと改めて認識させられました。
(2015.4)