キヤノンの高画素タイプ一眼レフはEOS 5Dsと EOS 5DsRですが、このカメラが登場するまでには高画素タイプカメラにはさまざまな考え方がありました。いわゆる高画素タイプは2012年に発売された3,630万画素のニコンD800とD800Eに始まりました。このカメラでは光学ローパスフィルター(OLPF)組み込んだD800と、光学ローパスフィルター効果を持たせないD800Eの2機種を用意したのです。2013年になるとソニーが同等の3,640万画素で光学ローパスフィルターを外したソニーα7Rをミラーレス機で発売しました。そして2014年にはニコンはD800シリーズの改良型として光学ローパスフィルターを外したD810を発売。キヤノンが光学ローパスフィルターを組み込んだEOS 5Dsと光学ローパスフィルター効果を打ち消したEOS 5DsRを6月に発売し、さらにソニーが4,240万画素のα7R Mark IIを8月に発売したのが現在に至るまでの経緯です。
この間いくつか話題に上ったのは、1)高画素に加え光学ローパスフィルターを外すと高鮮鋭画像が得られる、2)ピントが合いにくく、カメラがブレやすい、などでした。これらに対し、ニコンはD800Eで光学ローパスフィルター効果をなくし、D810では、ミラーショック軽減機構を組み込み、光学ローパスフィルターを外したのです。これに対しソニーα7は、ミラーレスですからショックは少ないわけで、さらにピントは像面によるコントラスト検出だから精度が高いということになります。もっともニコンD800とD800Eでは、Gタイプレンズの使用、ミラーアップ撮影、ノイズキャンセラーのOFF、三脚使用のライブビュー撮影などを推奨してきました。
このような経緯の中で、僕はたまたま毎年担当しているCP+で行われる上級エンジニアパネルディスカッションのコーディネーターとして、2013年、2014年にキヤノンとしては高画素一眼レフはやらないのですか?とキヤノンの技術責任者の方に質問してきました。答えとしては技術的には十分可能で、すでに当時5,000万画素のセンサー技術は確立されており、撮像素子の技術としては発表済みだということでした。そしてさらに聞くと、撮像素子の大きさに対し、適切な画素数というのがあるというようなお話をしていましたが、結局、フルサイズで5,060万画素のEOS 5DsとEOS 5DsRを2月のCP+2015の直前に発表したのです。当然、CP+2015のパネルディスカッションでは高画素に対する考え方、カメラブレへの対策、光学ローパスフィルターありのEOS 5Ds、光学ローパスフィルター効果なしのEOS 5DsRの技術などを聞きました。その後、PHOTONEXTの技術セミナーなどでも、両機に対する詳細な話を聞きましたが、僕個人の印象として得たものは、キヤノンは高画素タイプ一眼レフのフラッグシップモデルとして作ったものの、いまひとつ積極的ではないように感じました。また光学ローパスフィルターは画素数が上がってもこれからも必要だと考えていて、光学ローパスフィルター効果なしの5DsR機は、モアレが発生する確率が高くなっても、欠点を活かし究極の解像を目指すという人ために作った明言していることです。
【写真1】EF24〜70mmF4L IS USMを装着したキヤノンEOS 5Ds(画像をクリックすると大きくして見られます)
■僕がEOS 5Dsモデルを選んだ理由
結局、あれこれ悩んだ結果、今回、僕は光学ローパスフィルターが組み込まれたEOS 5Ds【写真1】を使ってみることにしました。なぜか、そのほうがキヤノンの高画素一眼レフ開発の目指した目的に近いのではと感じたのです。そしてもうひとつ、同じ高解像度でもA2判プリントで384ppiの解像度が、250ppi前後の他機種とどれだけ異なるのだろうかということなどを考えて、あえて光学ローパスフィルターありのEOS 5Dsを使ってみようと考えたのです【図1】。
【図1】キヤノンEOSシリーズの撮像素子部分の仕様をまとめてみました(画像をクリックすると大きくして見られます)
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PHOTONEXTの技術セミナーで聞いた話によると、EOS 5Dsの高画素を活用する仕様として、1)ミラー振動制御システムを採用、2)新ピクチャースタイル「ディテール重視」(細部表現力を重視したシャープネス設定)、3)光学Low Pass Filterをキャンセルし、さらなる高解像度を求めたEOS 5DsR、4)クロップ機能(×1.3、×1.6)で疑似望遠撮影可能、などがあげられています。このうちミラーショックを軽減させるためにはカム駆動方式を採用したということですが、ニコンもD610とD810では同じような機構を導入しているので、発売時期は多少ずれていますが、考えることはどちらも同じだなと思うわけです。さらにディテール重視のピクチャースタイルでは、スタンダードや風景モードよりシャープネスを上げるというので、これはまさにデジタルならではのことであり、なるほどと思うわけです。
これに加え、ミラーアップと電子先幕シャッターによる低振動撮影として「LV静音撮影モード」、レンズやフィルターを通過し光線が収差や回折、ローパスフィルターなどの要因で理想と異なるときに本来の形に戻す「デジタルオプチマイザー」機能、シャッターレリーズし、ミラーがアップしてシャッターが切れるまでの時間を調整する「レリーズタイムラグ任意設定」などの機能を載せています。キヤノンによると、単に画素数を増やしても、その画素数を活かすことはできないとして、カメラ振動の抑制、高画素を活かす画像処理(ディテール重視)、入力信号の改善(デジタルオプチマイザー)を行なったというのです。
なお、キヤノンによると2,000万画素APS-Cの撮像素子を35mm判フルサイズにしたのがEOS 5Dsの5,060万画素だというのです。そこで【図1】の画素ピッチを見ると4.1μmなので、現行の最もスタンダードなEOS 7DとEOS 7D MarkIIが同じ画素ピッチなので、このフルサイズ判ということになるのです。さらにAPS-Cの現行モデルとしては画素ピッチ3.7μmのEOS8000DとEOS Kiss 8xi、EOS M3があるわけですが、この関係をあてはめるとキヤノンはすでにフルサイズで6,050万画素のイメージャー技術を確立しているとみれるわけです。