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【写真3】ヘリアーハイパーワイド10mmF5.6はシネ用に対応させて、絞りリングは、クリックなしとありを選択できる。(写真をクリックすると大きくして見られます)

●人間の視野角度と写真レンズの画角
 「フォクトレンダー・ヘリアー ハイパーワイド10mmF5.6アスフェリカル」を使うことは僕の作画力を試されているようで、どうすると焦点距離を活かした効果的な写真が撮れるのだろうかと悩みました。いくつか撮りこんでいくうちに、今さら都庁の中庭からの写真でもないだろうし、建物の隙間からのぞく風景でもないだろうと考えました。そして得られた結論は、僕がいくつか示した作例にあるようにディストーションのなさからくる直線性の良さで、建築それも室内での撮影に向くという結論に達しました。
 実はこのような考えは、「シグマdp0クアトロ」のレポートをしたときに、知人の写真好きの不動産業の方からdp0クアトロが欲しいと伝えられ、その理由として教えられたことなのです。パースペクティブを効かせ、デフォルメされた奇をてらった面白写真ならフィッシュアイレンズのほうが向くと思うのです。このあたりはソフトフォーカスレンズが常用レンズとならないのと同じことだと思いますが、ヘリアー ハイパーワイド10mmF5.6はある分野では常用レンズとして使うことができるのです。
 ところで10mm130°という画角はどういう角度なのでしょうか? 人間は若いうちの好みの画角は広角で、歳を食うと徐々に挟角になってくるという説がありますが、これはあくまでもその人の印象なので客観性はありません。そして人間の視野角は写真の画角にするとどの程度の焦点距離になるのだろうかということも、人によっては眼鏡使用などの条件も付加されるので、これまたあいまいです。たとえば「人間の視野角、写真レンズ画角」と検索すると、50mm標準レンズ説が多いのですが、これは最初に発売されたライカの交換レンズの中で焦点距離的に標準であったことであり、人間の目の視野角はもっと広いとされているのです。ちなみに生理光学的に人間は、ライカ判カメラのいくつの焦点距離で撮影したのを好むかという統計データをとった例が、生理光学の権威畑田豊彦氏により発表されていますが、それによるとライカ判フルサイズでは、人は焦点距離35mmレンズで撮影された写真を好むというのです。しかし人間は焦点距離35mmの画角レンズを好むけれど、それが人間の視野角であるのとは別なのです。
 そこで僕なりの簡単な実験を行ってみました。まず、自分で正面を見たときにむりなく見える左右の範囲をおぼえておき、α7Rボディに焦点距離の異なるレンズを取り付け、それをカメラのファインダーでのぞいたときどの焦点距離でだいたい合致するかを調べたのです。その結果、僕の視野角は35mm判の焦点距離24mmに水平画角が等しいということになりました。もちろんある部分を注視すれば視野角はさらに狭く感じ、目を左右にぎょろぎょろと振ればもう少し広くなり、さらに首を左右に振ればもっともっと広い範囲が見渡せることになるのです。そこで改めてヘリアー ハイパーワイド10mmF5.6を装着してα7Rのファインダーをのぞくと、カメラを動かさなくても、ちょうど首を軽く左右に振ったぐらいの範囲が見渡せるのです。つまり、人間の一般的な視覚にはない広い範囲までが見渡せるのが10mmF5.6の画角なのです。ですから、まずは自分の頭で写る感じをイメージするというのが難しいし、さらに被写体までの距離にも関連してくるので、ファインダーをのぞいて作画を吟味するというのが大切なわけです。かつてキヤノンが50mmF0.95レンズを発売した時のキャッチフレーズは"人間の目より明るい"でしたが、ヘリアー ハイパーワイド10mmF5.6は"人間の目より幅広く見える"レンズであるわけです。
 今回もう1つ注目したのは、ソニーのレンズマウントの技術情報の開示に関することです。ソニーがEマウントでAPS-C判のNEX-3を発表したのは2010年米国PMAのときでした。その時のプレスコンファレンスで、マウントの技術情報を無料で開示すると発表していましたが、それはかつてのビデオのベータとVHSの問題からの教訓で、大切なのは仲間づくりなのだろう、くらいにしか感じていなかったのです。ところが開示を受けた結果か、単なる機械的なコピーが行われたかはわかりませんが、半年後のフォトキナにはソニー用のレンズマウントアダプターが60種以上も世界中のメーカーから登場したのです。1年後にはその数は、数百種にもなったと聞きました。現在ではマウントアダプターの市場のほとんどを中国企業が席巻しているのも事実です。その種類たるやそこまで需要があるのかと思えるほど希少なカメラマウントに対応させて、しかも安価なのには驚きます。
 消滅したカメラのレンズを、マウントアダプターを介してソニーのカメラに、しかも2013年からはライカ判フルサイズにも対応できるようになったのです。この結果、“クラシックレンズ遊び”なる新しいホビー分野が確立されたのです。何よりも、ソニーのα7シリーズが大きく今日のポジションを築いたのには、こうしたパテントロイヤリティーフリーのマウント戦略の存在が大で、その拡大の一端を担ったのは間違いないことです。
 さらに今回ソニーEマウントに対応させた「ヘリアー ハイパーワイド10mmF5.6」の登場は、ソニーEマウントカメラの現在のポジションを示す何物でもないことの表れであると考えるのです。しかも単なる機械的な結合だけでなく、AF以外の電子情報を十分に活用してのことなのです。すでにコシナはAF非対応ながら、キヤノンEF、ニコンFマウントには電子接点を対応させていました。これに新たにソニーマウントが加わったわけですから、カメラの勢力分野も新しい3巨頭の時代を迎えたのだと思った次第です。
(2016.06)


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