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市川泰憲(写真技術研究家、日本カメラ博物館)

  市川 泰憲(いちかわ やすのり)
1947年東京生まれ。中学・高校・大学と写真部に所属。1970年東海大学工学部光学工学科卒業。同年写真工業出版社入社、月刊「写真工業」編集長を経て、2009年より日本カメラ博物館に勤務しながら幅広い写真活動を続ける。日本写真協会会員。

■ブログ「写真にこだわる」開設しました
http://d.hatena.ne.jp/ilovephoto/

第四十回「シグマsdクアトロを使ってみました」

【写真1】18〜35mmF1.8DC HSM Artを装着したsdクアトロ(画像をクリックすると大きく見られます)

 シグマの独自イメージセンサーであるフォビオンを使ったレンズ交換式ミラーレス一眼「SIGMA sd Quattro」【写真1】が発売されました。このカメラ、僕的には、この時期一番注目度の高いカメラでした。その注目する部分は、フォビオンセンサーのもつ独特な高画質にあるわけですが、高画質ゆえの問題をクリアしたのがミラーレス一眼なのです。シグマの一眼レフは、フィルム時代の“シグマsa-1(1983)”、デジタル時代には“シグマSD9(2002)”に始まり2010年の“SD15”まで、数々のモデルを脈々と作り続けてきたのです。そして今回のミラーレス機“sdクアトロ”の登場です。
 ところで高画質ゆえの問題点とは、どのようなことなのでしょうか。これはデジタルの一眼レフ全般にいえることですが、いわゆるミラーのUp・Down、シャッター幕の走行によるブレの発生、ファインダー焦点面と撮像面との整合性などが、高画素(高画質)時代になってシビアになり目につくようになってきたのです。これに対する1つの答えがミラーレス(ノンレフレックス)だったのです。もちろん、一眼レフとミラーレスには現状ではそれぞれに利害得失があることも事実ですが、ここでそれを論じるのは目的とするところではありませんので、やめときます。
 シグマsdクアトロが2016年2月に公開された時に、レンズマウントはAF対応としたSA-300(1993)以来の 完全電子マウントの“シグマSAバヨネットマウント”(フランジバック44mm)で、イメージセンサーサイズがAPS-CとAPS-Hの2種類が発表されたのです。それ以前のシグマはフォビオン・クアトロセンサーを使った機種は、dp0クアトロ(21mm相当)、dp1クアトロ(28mm相当)、dp2クアトロ(45mm相当)、dp3クアトロ(75mm相当)と単焦点の固定レンズでラインナップしていましたが、独自のボディフォルムは中判カメラに相当するもので、焦点距離を変えて撮影することには、予め機種を絞るか、全機種を持ち運ばなくてはならないためにそれなりの覚悟と体力と労力が必要でした。当然クアトロセンサー搭載の次なる商品開発は、焦点距離を変えられるズームレンズ装着かレンズ交換式であることしか選択肢がなかったのです。CP+2014における山木和人社長によるdpクアトロの技術解説においては、高画素機における一眼レフのもつ難しさも述べられていましたから、レンズ交換式はミラーレス一眼でしかなかったのです。

【写真2】同じマウントで一眼レフのSD9とミラーレスのsdクアトロ。Sdクアトロのほうが小さい。(画像をクリックすると大きく見られます)

 そしてミラーレスで“sdクアトロ(35mm判1.5倍相当)”、“sdクアトロH(35mm判1.3倍相当)”が発表されたときに、多くのユーザーはミラーレスでフランジバック44mmはないだろうと嘆きましたが、そこは考えようで、SAバヨネットマウントを採用することにより1993年のSA-300以来のユーザーに対して1つ筋を通したことになるのです。もちろん、マウントアダプターを用意してというような技術的な解決方法もあったのでしょうが、世間で流行っているクラシックレンズ遊びのような他社レンズを装着することは他社に任せて、あくまでも自社の専用レンズを使ってもらうという、交換レンズメーカーとしての強い企業理念がそこにはあったのではないかと思うわけです。【写真2】には、レンズを取り外したSD9とsdクアトロを示しました。ミラーレスとは一眼レフのミラーとプリズムがなく、ピント合わせはEVFで行いますが、シグマの場合には、同じフランジバックで、同じマウントで、一眼レフからミラーレスへとレンズ交換式カメラをシステム変更したのです。
結果として、価格はオープンプライスですが、ボディのみ約8万9000円、30mm F1.4 DC HSM Artとのセットで約12万3000円と破格の戦略的価格がでているのです。この値段は、従来からのシグマSDカメラユーザーにとっては驚きであり、dpクアトロシリーズユーザーにとっては横滑りの価格帯であるために、少なくてもシグマユーザーには抵抗なく受け入れられるのだろうと考えるのです。さらにこの価格帯は、従来他社製品を使っている人にとっても、この値段ならサブ機として持ってもよいのではと思わせる誘惑的な価格設定であるのです。なおフォビオン・クアトロセンサー技術の詳細については、本シリーズ『第二十五回、シグマdp2クアトロ』の項をご覧ください。

■レンズ固定dpクアトロからレンズ交換式sdクアトロへ
 今回、使ってみるにあたり、どのようにsdシステムを組み上げるか考えました。まずは最初にAPS-Cモデル(23.4×15.5mm、約2,950万画素)か、APS-Hモデル(26.7×17.9mm、約3,860万画素)のどちらかを選ぶかとなるのですが、APS-Cはこの時期発売されましたが、APS-Hは12月の年末だというのです。もちろん気持ちのうえでは、大面積多画素のAPS-Hモデルを選択したくなるのですが、発売が12月ごろと予告されていますので、それまでオアズケというのもつらいことです。そこで見方を変えてみると、実は垂直記録のフォビオンセンサーはセンサーサイズ、画素数を超えたところで高画質なのです。そこがバイヤー方式の撮像素子とフォビオンの最も異なる特徴なのです。つまり、APS-Cでも十分にそれ以上のサイズのバイヤー方式の撮像素子と互角か、それ以上の画質が得られるというのが、いままで得てきたフォビオンの画質に対する印象なのです。

【図1】18〜35mmF1.8DC HSM Artの光学系、12群17枚構成(画像をクリックすると大きく見られます)



 そこでまずは30mm F1.4 DC HSM Artレンズとボディのセットを考えてみたのですが、単焦点だと30mmF2.8のついたdp2クアトロの、F2.8とF1.4と最大口径比の違いはわかるけれど、大口径でありながら焦点距離を手軽に変えられるということから、18〜35mmF1.8DC HSM Artを選びました【図1】。このレンズは、35mm判換算で27〜52.5mm相当の約1.9倍ズームで、全焦点域を開放F1.8、最短撮影距離28cmという仕様をもっています。つまりズームで焦点距離を可変しても、開放値はコンスタントF1.8という大口径を生かして撮影してsdクアトロは生きてくるのだと考えたのです。ということでこのsdクアトロの交換レンズを決めましたが、まず手に持って最初に感じたのは、しっかりと大きく重量もあるのです。もともとフォビオンセンサーのクアトロを使うのには、中判カメラ並みの画質が得られる反面、それなりの大きさを覚悟しなくてはならないと「dpクアトロ」の時に書きましたが、sdクアトロでは、交換レンズの選択にもよるでしょうが、ある程度の重さも覚悟した方がいいのです。これは、ボディと交換レンズの金属化率が高く、質実剛健に作られているためで、このあたりをよしとするか、しないかは、購入する人の考えに大きく依存するのです。小型・軽量をお望みの方は30mm F1.4 DC HSM Artの組み合わせでとなります。
 それでは、sdクアトロの使用感を18~35mmF1.8DCレンズとのその適正を配慮したうえで、いつものように定まった場所と、必要に応じてさまざまな場面での撮影結果を紹介しましょう。


【写真3】EVFの切り替えスイッチと視度補正ダイヤル(画像をクリックすると大きく見られます)

■使ってみたら
 操作にあたっては、ボディマウントのエプロン上部に電源スイッチが設けられています【写真3】。初めはなれないので戸惑いますが、使いなれれば目視・操作的にも合理的な位置だと思いました。そしてシグマとしては本機で初めて採用されたEVFは、背面液晶との自動・手動切り替えが選択可能ですが、この状態が目で簡単に認識できるのもいいところです。そしてEVFには視度補正ダイヤルがわかりやすくついているのも好感がもてます。ただし撮影にあたりEVFを覗いてみると、被写体によってはモアレが発生しやすいのです。ファインダーは写真を撮影するときの入り口となるわけですから、気持ちよく撮影するためには、さらなる向上を望むところです。
 それでは、実写結果を報告しましょう。


【作例1:いつもの英国大使館正面玄関前】焦点距離20mm(30mm)、絞り優先AE、F5.6・1/500秒、ISO AUTO 100、AWB、三脚使用(画像をクリックすると画素等倍まで拡大して見られます。

●作例1:いつもの英国大使館正面玄関前
 いつもの場所で、いつもの時間帯での撮影です。この日は、まだ梅雨明け宣言はされていませんが、前日までの雨も上がり青空がでましたが、いわゆる紺碧の空というわけにはいきませんでした。これは天候や露出レベルにもよる部分が大きいかと思いますが、その後撮り進んでいくなかでも、青空再現の感じは薄いなという印象です。撮影にあたっては、焦点距離20mmに、絞りはF5.6セットしました。焦点距離20mmは35mm判換算で30mm相当の画角となります。絞りF5.6セットは、このシーンを撮影するときにレンズ性能が十分に立ち上がっているだろうと考える絞り値で、いつも同じようにと僕が決めている設定です。ピントはカメラのAFによりますが、建物屋根中央下の紋章に狙いを定めています。
 撮影結果ですが、まず中央の紋章の部分を画素等倍まで拡大してご覧ください。実にしっかりと描写しています。このあたりは、他のカメラでも毎回、同じ場面を掲載しているので比較してご覧ください。このレベルの描写は一部の高画素タイプかフォビオンセンサーならではのものです。もちろん描写は、撮像素子だけで成立するものではありません。高画素、高画質に見合う光学性能をもったレンズでなくてはなりません。そこで画面全体を見渡すと、左右に樹木の部分に画像が流れた部分を確認できます。18〜35mmF1.8DCレンズは、APS-C判専用のレンズとしては開放絞り値全焦点域F1.8と極端に明るいレンズなのです。その結果からでしょうが、このような描写特性になるのでしょうか。ただしレンズというのは、これだけでレンズの性能判断下すことはできません。これから紹介する作例のなかで、さまざまなシーンでの描写も参考にしてください。
≪撮影データ≫焦点距離20mm(30mm)、絞り優先AE、F5.6・1/500秒、ISO AUTO 100、AWB、三脚使用


【作例2:いつものマンションの壁面】焦点距離16mm(24mm)、プログラムAE、F6.3・1/400秒、ISO AUTO 100、AWB(画像をクリックすると画素等倍まで拡大して見られます)

●作例2:いつものマンションの壁面
 いつものマンションの壁面ですが、ずばり一気に画素等倍にして壁面を見ると、レンガ状の表面がごつごつしてその輪郭もしっかりと見えます。この画素等倍にした時の質感というか解像感はまさにフォビオンセンサーならではのものです。この画面で少し気になるのは、左のビルの窓枠の部分に倍率の色収差による影響がかすかに見えることです。3,860万画素の画素等倍ですから、プリント作成には非現実的な大きさであることは、まちがいありませんが、気になる場合にはレタッチソフトで消すことも可能です。ただ、このあたりの収差の発生は一般的にはレンズの特性そのものと考えてよいと思うのですが、ひょっとしたらフォビオンセンサーならではのシビアな問題なのか、いずれ時間ができたら、同じ光学系で他社カメラマウント(バイヤー方式のCMOS)の18〜35mmF1.8DCレンズを使って確認したいです。
≪撮影データ≫焦点距離16mm(24mm)、プログラムAE、F6.3・1/400秒、ISO AUTO 100、AWB




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