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市川泰憲(写真技術研究家、日本カメラ博物館)

  市川 泰憲(いちかわ やすのり)
1947年東京生まれ。中学・高校・大学と写真部に所属。1970年東海大学工学部光学工学科卒業。同年写真工業出版社入社、月刊「写真工業」編集長を経て、2009年より日本カメラ博物館に勤務しながら幅広い写真活動を続ける。日本写真協会会員。

■ブログ「写真にこだわる」開設しました
http://d.hatena.ne.jp/ilovephoto/

第四十二回「シグマsdクワトロHを使ってみました」

【写真1】sdクワトロとsdクワトロHボディは、センサーの大きさが異なり、外観から見ると名称の所にHが加わっただけのようです。この写真で違うように見えたら撮影の問題ですのでご了解を。(以下、画像をクリックすると大きくして見ることができます)




【写真2】sdクワトロHにArt35mmF1.4DGを装着し、Art24mmF1.4DGを右横に配置しました。


【写真3】Art85mmF1.4DGを装着したクワトロHとAPS-C用のArt18-35mmF1.8DC。どちらも存在感たっぷりの重量級です。

■シグマsdクワトロH
 シグマのミラーレス一眼APS-C判「シグマsdクワトロ」が発売されたのは2016年7月、そしてAPS-H判「シグマsdクワトロH」が発売されたのが2016年12月、さらにこのレポートができ上がったのが2017年の6月というわけで、半年遅れの報告となりました。
 sdクワトロHは、外観としてはHの表記以外sdクワトロとまったく同じ【写真1】で、そもそもAPS-C判とAPS-H判の違いは、いまさらではありませんが、撮像素子の面積の違いからくるのです。その結果、APS-C判のsdクワトロでは35mm判に換算すると1.5倍の倍率がかかり5424×3616ピクセルの画像が撮影でき、APS-H判は1.3倍の倍率がかかり6192×4128ピクセルの画像が撮影できます。使用にあたっては、APS-C用にはDCタイプ(APS用)レンズを使い、APS-H用にはフルサイズ用の交換レンズが用意されています。
 シグマでは、これらの違いを含めてsdクワトロは3,900万画素相当、sdクワトロHでは5,100万画素相当の高画質が得られるというのです。なぜ出力ピクセル以上の相当という高画質が得られるのかというのは単純な疑問ですが、簡単にいうと4ピクセルのセンサーからRGB信号を導き出すバイヤー方式のカラーセンサーと、1ピクセルの単一センサーからRGB信号を導き出すフォビオンセンサーでは解像感が違うというわけです。
 このあたりは何倍いいのかという話になり、過去に多くの人により計算で導き出されていますが、単純に3倍いいということでなく、過去に僕が計算したらほぼ2倍の解像感が得られるのです。これは、かつて画質というと撮像素子のピクセル数で決まるという感じがありましたが、実際は、このように撮像方式によっても変わり、光学RAWパスフィルターのあるなし、レンズの解像力も加味されて、画質は決まるわけでして、さらにプリントするときの拡大率にも大きく依存するのです。
 実際どのくらい違うのかとは、いくら計算や文章で表現しても難しく、このシリーズでシグマのフォビオンセンサーを取り上げた部分と他機種の高画素機との違いを見てもらえばわかります。

■実際に写してみると
 そこで撮像素子の原理的な違いをいうよりも、実際写してみたらどうでしょう。「百聞は 一見にしかず」というわけです。今回は、じっくりと長期にわたり使用しましたので、真冬から初夏までと作例もさまざまです。使用したレンズも、シグマ純正で、フルサイズ用のArt35mmF1.4DG、Art24mmF1.4DG【写真2】、Art85mmF1.4DGの3本に加え、APS-C用のArt18-35mmF1.8DC【写真3】の4本を使いました。

■Art35mmF1.4DGの場合
 シグマsdクワトロHボディにセットレンズとして発売されているのが、Art35mmF1.4DGです。クワトロHはAPS-Hですので、1.3×をかけて45.5mm相当画角となるので、これが標準レンズというわけです。以下、まずはArt35mmF1.4DGの場合を紹介しましょう。


【作例01】いつもの英国大使館正面玄関 <レンズ>シグマArt35mmF1.4DG(35mm判45mm相当画角)<撮影データ>絞り優先AE_F5.6・1/640秒、ISO100、AWB、三脚使用

●いつもの英国大使館正面玄関【作例01】
 毎度おなじみの英国大使館です。季節は変わっても、とりあえず晴天の青空のもと、午前10時20分頃に定点撮影的に撮影するというのが、僕が決めたルールです。このほか、焦点距離は35mmあたりを基準に、絞りはF5.6に設定して、三脚使用、ピントは建物屋根中央下のエンブレムに合わせてと、決めていますので、カメラ、画素数、レンズが変わってもその部分、さらには各部を見れば、だいたいの画質はつかめます。
 <レンズ>シグマArt35mmF1.4DG(35mm判45mm相当画角)<撮影データ>絞り優先AE_F5.6・1/640秒、ISO100、AWB、三脚使用(撮影:2017/01/28)
 さていかがでしょう。ここで見ていただきたいのはsdクワトロHに加え、本シリーズバックナンバーAPS-C判のsdクワトロの同じ英国大使館カットです。どちらも驚くほど微細に解像していますが、パソコン画面の画素等倍に拡大して見たときの大きさの違いが、sdクワトロHとsdクワトロの画素数の違いなのです。さらに比較してみるなら、ニコンD810(3,640万画素)、ソニーα7Mark II(4,240万画素)、キヤノンEOS 5Ds(5,060万画素)、ペンタックスK-1(3,640万画素)などの他社高画素機と比較してみてください。もちろんこれらの違いには、レンズ性能を含んだうえであることです。(画像をクリックすると画素等倍まで拡大できます)


【作例02】寒椿と梅 <レンズ>シグマArt35mmF1.4DG(35mm判45mm相当画角)<撮影データ>絞り優先AE_F1.4・1/50秒、ISO125、AWB、三脚使用

●寒椿と梅【作例02】
 シグマArtラインのボケ味は最近評判がいいのです。そこで、35mmF1.4の絞り開放の描写はどんなものかと、旅館の次の間に生けてあった寒椿の花の雌しべにピント合わせて狙ってみました。(茨木県袋田)
 <レンズ>シグマArt35mmF1.4DG(35mm判45mm相当画角)<撮影データ>絞り優先AE_F1.4・1/50秒、ISO125、AWB、三脚使用(撮影:2017/03/05)
 もちろん、狙った雌しべは花粉までしっかりと見えるほどシャープで、ピント面と同一平面上にある椿の葉の光沢感と解像感はなかなかですが、ここでしっかりと見ていただきたいのは、背景のボケ具合で、赤い花びらの直後の椿と梅の花のボケ具合、さらには左奥上の額縁のボケ具合とも、ムラのない自然なボケ味が再現されています。(画像をクリックすると画素等倍まで拡大できます)


【作例03】まるで鉄牛のようですが <レンズ>シグマArt35mmF1.4DG(35mm判45mm相当画角)<撮影データ>プログラムAE_F5・1/500秒、ISO100、AWB、手持ち撮影

●まるで鉄牛のようですが【作例03】
 埼玉県小鹿野町に埼玉県山西省友好記念館「神怡館(しんいかん)」というのがあります。隣に温泉があるので、ときどき訪れますが、秩父の山奥に突如として現れる異国ムードあふれる中国式寺院建築の赤茶色の屋根と青空のコントラストが映える場所です。このお寺の入り口に大きな鉄製のような牛の像があります。そこをわきから狙ってクローズアップ。
 <レンズ>シグマArt35mmF1.4DG(35mm判45mm相当画角)<撮影データ>プログラムAE_F5・1/500秒、ISO100、AWB、手持ち撮影(撮影:2017/03/12)
 絞りF5とある程度絞り込まれていますが、近接した撮影であるために、35mmという焦点距離ですが、背景は適度にボケて撮影できました。このボケ具合も、素直な描写です。実は、この牛の像を長いあいだ鉄の鋳物だと思っていたのですが、近づいてみてみたら少し欠けていて、そこをよく見たら樹脂製のレプリカなのでした。ずいぶん長い間だまされていましたが、それにしても複製技術のうまさに感心しました。(画像をクリックすると画素等倍まで拡大できます)


【作例04】「神怡館」入口の天井画 <レンズ>シグマArt35mmF1.4DG(35mm判45mm相当画角)<撮影データ>プログラムAE_F2.8・1/200秒、ISO100、AWB、手持ち撮影

●「神怡館」入口の天井画【作例04】
 神怡館入口の天井を見たら、繊細な筆と色づかいの天井画が描かれていました。早速、撮影してみました。
 <レンズ>シグマArt35mmF1.4DG(35mm判45mm相当画角)<撮影データ>プログラムAE_F2.8・1/200秒、ISO100、AWB、手持ち撮影(撮影:2017/03/12)
 大きく拡大して見ても、周辺までまったく画に崩れがなくきれいに微細な部分まで見えます。屋外の天井という、ムラない照明がマッチしたのでしょうか、画とカメラの画質がうまく組み合わさった好例だと思うのです。(画像をクリックすると画素等倍まで拡大できます)


【作例05】秩父農村神楽 <レンズ>シグマArt35mmF1.4DG(35mm判45mm相当画角)<撮影データ>プログラムAE_F4・1/400秒、ISO100、AWB、手持ち撮影

●秩父農村神楽【作例05】
 埼玉県秩父市の神明社に安政年間から伝わるという農村神楽。このときの演題は「蛇打座」で、スサノオノミコトがヤマタノオロチを退治して、イナダヒメノカミと結ばれるという神話をもとにした、お神楽でした。
 <レンズ>シグマArt35mmF1.4DG(35mm判45mm相当画角)<撮影データ>プログラムAE_F4・1/400秒、ISO100、AWB、手持ち撮影(撮影:2017/03/12)
 このシーンは前の天井画とはまったくライティングの関係は逆で、輝度比が高く、カメラにとっては最も苦手なシーンとなっています。舞台中央に立つイナダヒメノカミの演者を描出すると、手前の舞台手すりと奉納金の書かれた紙は露出オーバーで白く飛び気味となります。本来なら、アンダー気味に撮影して、部分的に中央の演者を明るくするという、レタッチテクニックを使えばよいのでしょうが、ここではカメラの性格を知るという意味から、撮影したそのままのデータを載せてあります。(画像をクリックすると画素等倍まで拡大できます)


【作例06】ポートレイト・1 
<レンズ>シグマArt35mmF1.4DG(35mm判45mm相当画角)<撮影データ>プログラムAE_F2.8・1/200秒、ISO100、+0.7EV補正、AWB、手持ち撮影

●ポートレイト【作例06】
 レンズとカメラの性能(性格)を知るのにはポートレイト撮影が一番だと僕はいつも考えています。撮影距離にもよりますが、髪の毛やまつ毛の分離具合を見て解像力を、肌の描写を見て階調特性や発色傾向がわかるのです。
 <レンズ>シグマArt35mmF1.4DG(35mm判45mm相当画角)<撮影データ>プログラムAE_F2.8・1/200秒、ISO100、+0.7EV補正、AWB、手持ち撮影(撮影:2017/05/20)
 モデルさんには失礼ですが、向かって左の目のあたりをクリックして画素等倍まで拡大して見てください。いかにシャープかよくわかるでしょう。このような撮影は、本来はポートレイトモードにするのがよいのでしょう。ポートレイトモードの場合にはわずかに描写は柔らかく、若干赤みが増すようですが、その差は微妙で好みの範囲の違いです。(モデル:ひぐれ ともみさん、日比谷公園)
 
 

【作例07】高い解像感を知る・1 <レンズ>シグマArt35mmF1.4DG(35mm判45mm相当画角)<撮影データ>プログラムAE_F6.3・1/700秒、ISO100、−0.7EV露出補正、AWB、手持ち撮影

●高い解像感を知る・1【作例07】
 長野県千曲市にある荒砥城址より市内を俯瞰し写してみました。天候に恵まれて青空であったのですが、距離があるので、うっすらとカスミがかかっているような感じがします。画面全体で見ると、それほど高解像であることを感じませんが、それはモニターの解像度であり、画素等倍まで拡大すると、川の手前と奥の家並みの1軒1軒がしっかりと解像しているのに驚きます。
 <レンズ>シグマArt35mmF1.4DG(35mm判45mm相当画角)<撮影データ>プログラムAE_F6.3・1/700秒、ISO100、−0.7EV露出補正、AWB、手持ち撮影(撮影:2017/03/29)
 解像度の高さは、さまざまなシーンで実感することができますが、このようなシーンでの細密描写には、ただただ驚くばかりです。(画像をクリックすると画素等倍まで拡大できます)


【作例08】高い解像感を知る・2 <レンズ>シグマArt35mmF1.4DG(35mm判45mm相当画角)<撮影データ>プログラムAE_F5.6・1/800秒、ISO100、−0.7EV露出補正、AWB、手持ち撮影

●高い解像感を知る・2【作例08】
 前作例と同じ荒砥城址での撮影ですが、こちらは天守閣跡地の木製の柵にピントを合わせてみました。
 <レンズ>シグマArt35mmF1.4DG(35mm判45mm相当画角)<撮影データ>プログラムAE_F5.6・1/800秒、ISO100、−0.7EV露出補正、AWB、手持ち撮影(撮影:2017/03/29)  撮影結果からすると、木の柵は日差しのよい場所でつねに乾燥したような状態で立っているのですが、拡大して見ると木材の乾いた感じがよくわかります。(画像をクリックすると画素等倍まで拡大できます)



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