【図1】4群6枚、キノ・プラズマートの構成(画像をクリックすると大きくして見られます)
【写真1】ルミックスG1に装着したキノ・プラズマート25mmF1.5(画像をクリックすると大きくして見られます)
【写真2】キノ・プラズマート25mmF1.5の銘板(画像をクリックすると大きくして見られます)
【写真3】絞りと距離目盛(画像をクリックすると大きくして見られます)
光学技術者と古典レンズを親しむ人にとって、カール・ツァイスのレンズ設計者であったパウル・ルドルフ(Paul Rudolph、1858-1935)はよく知られた存在です。ルドルフの設計したものとしては、ツァイス・アナスチグマート(Anastigmat、1888、後のプロター)、プラナー(Planar、1892)、テッサー(Tessar、1902)などがあります。ルドルフは、ツァイスを退社した後にヒューゴ・メイヤー(Hugo Meyer)社に移り、1922年ごろに設計したのがキノ・プラズマート(Kino Plasmat)でした。このキノ・プラズマートは読んで字のごとしで、ドイツ語のKino=映画用のプラズマートレンズというわけです。
焦点距離は、12.5mm、15mm、16mm、19mm(3/4inch)、25mm(1inch)、50mm、75mmのF1.5などがあるのですが、映画用ということからイメージサークルは小さくCマウント仕様のものが大半で、わずかに50mm、75mmなどが35mm判に対応しています。レンズ構成は4群6枚のほぼ対称形【図1】で、中心部の2枚がメニスカスでそれぞれ反り返った形で対抗して配置されていることで、他にあまり見ない構成です。描写の特性としては、背後のボケがシーンによってはグルグルと円を描くこととされています。
そこで改めてキノ・プラズマートの魅力はなんだろうかと、実写を重ねて自分なりに考えてみました。発売当時、基本的には明るい大口径レンズであったのが最大の特徴だっただろうと考えられます。ただ昨今、キノ・プラズマートは、あまりにも高価であるために、いままで個人的にはまったく興味の対象外でありましたが、今回は知人が長期にわたり貸与してくれましたので、ゆっくりと撮影し、その描写を検討してみました。
●Kino Plasmat 1inch F1.5
今回、手にしたのはキノ・プラズマートの1インチF1.5です。1インチは2.54cmですから、メートル換算で約25mmF1.5のレンズとなります。マウントは16mmシネ用のCマウントです。最初にレンズとともに提供されたマウントアダプターはマイクロ4/3用でしたので、マイクロ4/3の「ルミックスG1」ボディに装着しました【写真1】。このG1は、ミラーレス一眼の最初の機種として発売が2008年ですから、すでに発売後10年を経過していますが、1,200万という画素数に不満がなければ、いまでも十分に使える完成度の高いものです。
レンズ正面【写真2】を見ると、Kino plasmat f:1.5 1 inch Patent Dr.Roudolph Mayer-Goerlitz-New Yorkなどのほか、シリアルNr.293649などが記されています。この銘板には、他にHugo Meyer Goerlitzと刻まれたのもあるようですが、本個体にはHugoはなくMeyerだけでGoerlitz に加えNew Yorkが加わっているのです。Hugo Meyerと記せられたもの、単にMeyerとだけ記せられたものも混在していたようですが、Hugo Meyerとだけ書かれたものの方が数は少ないとされています。なおHugo Meyer 社の出荷台帳によると、製造は1929年とのことで、初期のキノ・プラズマートとなりますが、当時メイヤー社はゲルリッツのほかニューヨークにも拠点を持っていたのでしょう。
また、レンズ鏡胴には絞り数値が、F1.5-2.8-3-4-6-8-11と不等間隔で、距離目盛はFeet数値で、2-3-5-10-∞と刻まれています【写真3】。このうち絞り数値はF1.5の指標よりさらに回転することができますが、F1.5の目盛りで絞り羽根そのものは全開なので、それ以上回しても口径が大きくなるわけではありません。一方、距離リングの方は、最短の2フィート(約60cm)の目盛りよりさらに回転できヘリコイドもわずかに繰り出されるので、実測すると約30cmまでの撮影が可能となりました。焦点距離25mmでの最短撮影距離30cmは妥当で、後述しますが、この最短撮影距離30cmは実写場面において、グルグル巻きの描写を得るときにはきわめて有効な撮影距離でした。