6群8枚構成の「第1世代ズミクロン35mmF2」は通称8枚玉≪図1≫と呼ばれています。設計はカナダライツで1958年に発売されましたが、当初はカナダで製造され、後にドイツで製造されるようになりました。今回ここで採り上げたのはドイツ製です。
一方、4群6枚構成の「第2世代ズミクロン35mmF2」は通称6枚玉≪図2≫と呼ばれ、1969年に登場しましたが、初期のカナダライツ製と後期のドイツ製に分かれます。この初期型には絞りリングを動かす突起が設けられていて通称「ツノ付き」と呼ばれ、後期型ではツノはなくなっています。今回の対象レンズはツノ付きです。8枚玉も6枚玉も光学系としてはどちらも変形ガウスタイプです。
≪図1≫第1世代ズミクロン35mmF2、6群8枚(画像をクリックすると大きく見られます) |
≪図2≫第2世代ズミクロン35mmF2、4群6枚(画像をクリックすると大きく見られます) |
≪写真1≫左からズマロン35mmF2.8、8枚玉ズミクロン35mmF2、6枚玉ズミクロン35mmF2(画像をクリックすると大きく見られます) |
外観的にはどうでしょう。≪写真1≫は手元にあるズマロン35mmF2.8を加えて、8枚玉ズミクロン35mmF2と、6枚玉ズミクロン35mmF2を並べてみました。ズマロンと第1世代8枚玉は鏡胴デザインが流用され一緒なのです。そして8枚玉が好きな人は、距離リングの指宛が無限遠位置にセットされるときに、パッチンという音がしてロックされるのがいいだというのです。また第2世代6枚玉のカナダライツ製は“ツノ”と呼ばれる絞りリングにレバーがついているのです。こちらの方は、ツノがあるから便利だということはあまり聞いたことがありませんが、それぞれの特徴ある部分をクローズアップしたのが≪写真2≫です。
撮影は≪写真3≫に示すように、手元にあるライカM9(CCD、1800万画素)、ソニーα7R II(CMOS、4240万画素)で行いました。ズミクロン35mmF2はライカの交換レンズだからライカの距離計連動機で行うのが本来とも考えられますが、最近はマウントアダプターを介してミラーレス一眼で使うことも多いし、レンズの性能をうんぬんするからには、高画素タイプで見る方がいいわけです。そして、それぞれにはライツ純正のフードと純正のフィルター(Leica UVa E39 13132)を取り付けて、実際の撮影に即した装備としました。以下実写を、8枚玉、6枚玉と同じ場面で比較した場合と、それぞれをランダムに撮影した場合をお見せして検討することにします。
≪写真2≫無限遠ストッパーの付いた8枚玉と6枚玉のツノ(画像をクリックすると大きく見られます) |
≪写真3≫ライカM9(CCD、1800万画素)とソニーα7R II(CMOS、4240万画素)(画像をクリックすると大きく見られます) |
≪写真4≫左:8枚玉、右:6枚玉。正面から見ると差はないのですが(画像をクリックすると大きく見られます) |
≪作例01A、8枚玉:英国大使館≫α7R II:絞りF5.6・1/500秒、ISO100、AWB(画像をクリックすると画素等倍まで大きく見られます)
≪作例01B、6枚玉:英国大使館≫α7R II:絞りF5.6・1/640秒、ISO100、AWB(画像をクリックすると画素等倍まで大きく見られます)
●同じ場面を8枚玉と6枚玉で撮る
■英国大使館正面玄関
いつもの英国大使館正面玄関。ほとんどのレンズ評価の最初は、僕の場合この英国大使館の正面玄関を撮影することから始まるのです。撮影条件は、晴天の日の朝10:15〜10:30ぐらいの間に、絞りF5.6でAE撮影、ピントは屋根の上部中央のエンブレムに合わせてあります。撮影は三脚使用で、ソニーα7R IIです。カメラポジションは三脚を使って目高位置にてわずかに仰角をもたせてアングルを決めています。ここはライカMマウントレンズだからライカM系のボディだけでやるのが本来かもしれませんが、ピント合わせは、距離計連動機ではこのような場所での焦点合わせは、ライブビューができ、しかも測距点の移動できるライカM10しかできません。またレンズの解像力を上回る撮像素子のボディで撮影しないとレンズの微妙なところはいえませんので、4,240万画素のソニーα7R IIを使ったのです。
それでは、実際に写された各シーン5ショットずつのうちベストと考えられるコマの画像からそれぞれの描写を見てみましょう。まず画素等倍に拡大して、屋根の上部中央のエンブレムを見てみると、8枚玉、6枚玉共に解像感は大きく相違はありません。ところが、6枚玉の画面最周辺の建物屋根部分をよく見ると、左右ともわずかに崩れているのです。これは、さらに絞り込むと解消するかもしれませんが、フィルム時代には周辺までプリントするフォコマートなら撮影の被写体と拡大率によっては目につきますが、スライドのマウントにセットすれば隠れてしまうというレベルです。
≪作例01A、8枚玉:英国大使館≫α7R II:絞りF5.6・1/500秒、ISO100、AWB
≪作例01B、6枚玉:英国大使館≫α7R II:絞りF5.6・1/640秒、ISO100、AWB
撮影のデータを書き出してみましたが、6枚玉はシャッター速度が同じ絞りF5.6でも1/3段ほど早いのです。つまり透過光量が6枚玉の方が高いのです。これは単純に6枚と8枚の差が出てきたものなのでしょうか。この2本のレンズは、正面から透かして見ると同じようにクリアに見えるのですが、斜めから後玉を見ると8枚玉が白くベールをかぶったように見えるのです≪写真4≫。これは単純に6枚玉の方がコーティングの性能が上がったのか、それとも硝材の屈折率が異なるからかなど考えられますが、正確にはわかりません。(東京・千代田区、2018.7)
≪作例02A、8枚玉:世界のガラス館≫α7R II:絞りF8・1/125秒、ISO100、AWB(画像をクリックすると画素等倍まで大きく見られます)
≪作例02B、6枚玉:世界のガラス館≫α7R II:絞りF8・1/160秒、ISO100、AWB(画像をクリックすると画素等倍まで大きく見られます)
■ほぼ無限遠距離で画面の均一性を見る
英国大使館の撮影は、カメラから約20mの所にある建物がターゲットでしたが、さらにF8に絞り込んで無限遠に近い所にある平面の被写体の場合にはどうだろうかと撮影した結果が≪作例2Aと2B≫です。この場面では、画面中央の部分の解像特性を知るために、あえて地面を多く取り入れ水平・垂直がでるようにして撮影しました。
≪作例02A、8枚玉:世界のガラス館≫α7R II:絞りF8・1/125秒、ISO100、AWB
≪作例02B、6枚玉:世界のガラス館≫α7R II:絞りF8・1/160秒、ISO100、AWB
結果からすると、6枚玉の周辺の画質低下はほとんど解消されました、6枚玉の方が絞りの効きが遅いようです。ただ6枚玉は、画面中央部のシャープさではわずかに勝っているようです。画像の平坦性を狙って6枚玉をさらに絞り込むと、回折現象との兼ね合いになるので、F8ぐらいが適切な絞り値といえそうです。(福島県猪苗代町、2018.7)
≪作例03A、8枚玉:北大にて≫α7R II:絞りF8・1/200秒、ISO100、AWB(画像をクリックすると画素等倍まで大きく見られます)
≪作例03B、6枚玉:北大にて≫α7R II:絞りF8・1/200秒、ISO100、AWB(画像をクリックすると画素等倍まで大きく見られます)
■中距離で画面の均質性を見る
さらに撮影距離15mぐらいの所での壁面を狙ってみました。実は最初の英国大使館の場面では、エンブレムを上部に入れるためにカメラを上に少し向けていたのです。ガラスの館では水平・垂直をだしての撮影でした。ここでは手持ちでしたが、同じように建物に水平を合わせて撮りました。
≪作例03A、8枚玉:北大にて≫α7R II:絞りF8・1/200秒、ISO100、AWB
≪作例03B、6枚玉:北大にて≫α7R II:絞りF8・1/200秒、ISO100、AWB
結果としては、画面上端の左右隅は、8枚玉、6枚玉ともかなり崩れたままです。結局、レンズの性質を知ったうえで、作画するのがベターということなのでしょうが、被写体、絞り値、撮影距離でずいぶん違うのです。画面中央部はやはりわずかながら6枚玉の方がシャープです。(2018.7)