手元に2本のライツ・ズマール5cmF2がある【写真1】。1本は自分の、もう1本は友人であるノンライツRFクラブ代表大澤さんの物だ。もともと僕が撮影に古いズマール5cmF2で画作りをと考えていたときに、その場に居合わせた大澤さんも同じズマールを持っていて、ぜひ撮り比べて見てください、とのことなのでお預かりした。まずは手始めにと、その場で2本をほぼ同じ条件で撮影してみると、びっくりした。僕所有のは、みごと画面全体にフレアがかかっている。片や大澤さんのはすっきりと普通のレンズなのだ。さてその違いはとなるわけだが、聞くところによると、大澤さんのは新宿の山崎光学で、再研磨し単層膜のレンズコーティングを施したレストア品だということ。それぞれのレンズナンバーを調べてみると、僕のがNo.299499なので1936年製、大澤さんのはNo.406952なので1937年製ということになった。その違いはわずか1年だが、その間で10万以上もナンバーに開きがあるわけだから、ライツにとっては黄金の時代だったのだろう。ちなみに1936年と1937年の時代というとボディはIIIaの時代であった。
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写真1
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左はライカM9に単層コーティングされたズマール5cmF2、右はオリジナルズマール5cmF2が付いていたライカIIIaである。ボディナンバーは193073、1936年の製造で、いまから75年前に製造されたものである。レンズともども義父から譲り受けたものだが、ボディと75年も一緒にいたのだろう。
一般的に、写真用のレンズにコーティングが施されるようになったのは戦後のことであり、その点において2本のズマール5cmF2はノンコートの時代のレンズであるといえるのだが、改めてこの時期にコーティングをし直したものはこんなにもコーティングの効果が顕著なのかと驚いた。
それでは、もう1本の僕のほうは、最初からこんな状態だったのかというと少し違うようだ。【写真2】にガラス第1面のクローズアップを示したが、必要以上にテカテカ、つまり反射しているのがわかる。これはたぶん経時変化による、ガラス表面の劣化であると思われるのだ。光学的な専門用語ではヤケと呼ばれているようだが、空気中の炭酸ガスや水分などの影響を受けて、ガラス表面が白くなったり、干渉膜が発生したりということになる。ズマール5cmF2の第1面ガラスは、そのような現象を起こしやすく軟らかいというのが通説のようで、そのために大澤さんは山崎さんの手になるチューンナップを施したようだ。
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写真2
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左は単層コーティングされたズマール5cmF2、右はオリジナルズマール5cmF2である。レンズ第1面から奥に行くにしたがってまるで銀鏡のように光って見えるが、これは見る角度によっても大きく異なる。しかしこれを見る限り、コーティングされたズマールのほうが良く写りそうな気がする。