■乾板時代のレンズがいまに生きる
今回は、クラシックカメラファンなら垂涎の的、しかもエルノスターレンズには種類が数々ありますが、10cmF2というのは数少ない個体なのです。僕は、エルノスターレンズは過去に11cmF2.7、12.5cmF1.8の撮影結果を見たことがあのですが、いずれも10cmF2に劣らぬ素晴らしい描写を示していました。エルネマンのエルマノックスが発売されたのは1924(大正13)年、つまり今から90年も前の時代なのです。この時代の乾板は当然黒白であり、感度はASA感度以前の時代であってよくわかりませんが、ザルモンが室内で、手持ちか一脚のような補助具を使って、絞り開放F2・1/30秒とか1/15秒とかが撮影できたとしたら、現代のISO25に相当するような感度の乾板があったのではないかと考えられるわけです。前述の寫眞光学(1935年刊)によれば、ベルテレの解説を“非常高速度寫眞レンズ”と訳しているところがおもしろいです。
【写真5】エルノスター16.5cmF1.8の付いたエルマノックス(クリックすると大きく見られます)
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ところで今回の原稿をまとめるにあたり、エルマノックス、エルノスターの話をしていたら、エルノスター16.5cmF1.8と大変珍しいレンズの付いたエルマノックス【写真5】をIさんから見せていただきました。このカメラは120ロールフィルムホルダーが使えるようにフィルムバックを改造してあるのですが、期せずしてフィルムで使うエルノスター、デジタルで使うエルノスターとそろったわけです。この個体は、絞り羽根が取り払われているために、かつては絞り開放で大口径を活かし天文観測に使われていたのではないだろうかと考えられるわけですが、本来ならその時代は乾板であったわけですから、乾板→フィルム→デジタルと感光材料3世代の時代を経た名玉がいまに生きているというのも楽しい話です。 (2014.7)