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市川泰憲(写真技術研究家、日本カメラ博物館)

  市川 泰憲(いちかわ やすのり)
1947年東京生まれ。中学・高校・大学と写真部に所属。1970年東海大学工学部光学工学科卒業。同年写真工業出版社入社、月刊「写真工業」編集長を経て、2009年より日本カメラ博物館に勤務しながら幅広い写真活動を続ける。日本写真協会会員。

■ブログ「写真にこだわる」開設しました
http://d.hatena.ne.jp/ilovephoto/

第二十四回「ニコンD810を使ってみました」

【写真1】ニコンD810、AFニッコール35mmF2D(画像をクリックすると大きく見られます)

 まず先行機のD800とD800Eは、どちらも同じ撮像素子を使った高画素機で、その違いは何なのかということですが、光学ローパスフィルターのあるなしだとされていました。光学ローパスフィルターは一般的にD800シリーズのように画素ピッチの細かい高画素タイプだと実用上はなくてもいいとされています。ただ、D800Eの光学ローパスフィルターレスは、フィルターがないのではなくフィルターの効果を打ち消すように光学ローパスフィルターを重ね合わせたというのです。なかなかこのあたりは理解に難しく、簡単には合点がいくのですが、よくよく考えると、実際はどうなっているのだろうかということになるのです。でも結局、最新モデルD810【写真1】では単純な光学ローパスレスとなったのですから、最終的にはこのあたりに集約されるのが必然的な流れだったと思うわけです。ということで、D800、D800EとD810を代表的なスペックを抜き出してみたのが【図1】で、同じ高画素のCMOS撮像素子を使ったカメラとしてソニーα7Rも参考までに載せました。ご存じのようにD800シリーズは一眼レフカメラ、α7Rはミラーレス一眼というわけですが、スペックの集約の仕方によってはその差はわからなく、唯一光学ローパスフィルターのあるなしが相違点であり、D810が光学ローパスフィルターレスになったのは十分に納得いく発展形態であるわけです。

【図1】高画素機ニコンD800シリーズとソニーα7Rの比較(画像をクリックすると大きく見られます)


 ところで僕の最大の関心事は、6月26日付ニコンD810のニュースレリーズに書かれていた『 高精度なAF に加え、カメラ内部で生じる振動を大幅に低減したことで、有効画素数3635 万画素の解像力を最大限に引き出した、いっそう鮮明でクリアな画像を提供します。』という一文です。これは2年前にD800Eを使った時から、かなり感じていたのです。このとき、撮影画像の結果に対してニコンの担当者から得られた解答は、1)D800Eは、ボディ内駆動(AFカプラー方式)のAF-DレンズにはAFが十分に対応しないので、SWM(超音波モーター)レンズ内駆動のAF-SのGタイプでナノクリスタルコーティングのものを使って欲しい、2)撮影時は三脚を使って、ミラーアップして、ライブビューでピント合わせをして、デフォルトで設定してあるノイズキャンセラーをoffにして欲しい、3)天気の良い日に撮影して欲しい、などでした。もちろんこれは僕だけに対する回答ではなく、ニコンのD800とD800Eを解説するホームページに「テクニカルレポート」としてかなり詳細に記述されているわけですから、多くの人が知る部分でもあるわけです。
 D800Eを最初に使った時に、まず気になったのがピントの合焦確率が低いことだったのです。さらにブレてるような感じもあったので、どうしてD4のようにしっかりしたボディに高画素のセンサーを入れなかったのですかとたずねたところ、上述のような撮影技法(解決策)を教えてくれたのです。機構的にはD800シリーズのような画素ピッチ4μmクラスの高画素タイプでは、機械的ブレ幅(振動)を2μm以内に抑えなくてはならなく、難しいのだというようなことを話してくれました。しかし、ある意味で一眼レフを否定するような撮影技法を一般ユーザーに開示したのですから、いかにもニコンらしいきまじめさを感じるところでもあったわけです。


【作例1:明日香さん】絞り優先AE、F2・1/15秒、ISO800、AWB(クリックすると画素等倍まで大きくして見られます)

【作例2:ボトルをアップ】絞り優先AE、F2・1/20秒、ISO800、AWB(クリックすると画素等倍まで大きくして見られます)

【作例3:駅前のYS-11】絞り優先AE、F5.6・1/250秒、ISO100、AWB(クリックすると画素等倍まで大きくして見られます)

■さっそくD810で撮影してみる
 いくら理論や原理原則をいってもきりがありません。そこで、さっそくD810で写真を撮ってみようということになったのです。どんなレンズを使うか、これには、さまざまなことを考えましたが、結局はD800Eでダメだといわれた“AFニッコール35mmF2D”をあえて使うことにしました。このレンズはD800Eのときに、AF確度が低いからということで、ライブビューにしてマニュアルでピント合をわせて使っていたのですが、AF-S Gタイプの24~70mmのズームレンズより解像力が高いのであえて使っていたのです。また、このような理由からD800Eで同じ場面を同じレンズで撮影していることが多かったのです。ですから、今回は同時に比較撮影をしなくても必要に応じて過去の結果と見比べてみれば、それぞれの描写特性を比べてみることができるのです。
 撮影は、ボディの日付設定、モードの選定、絞りの設定などを除き、基本的にはすべてデフォルト(メーカー出荷時)のまま行っています。
【作例1:明日香さん】 カメラを開梱し、初めてメディアを入れて撮った時の最初の1枚です。絞り優先AEで絞り開放のAF、しかも手持ちの1/15秒。シャッターを切って、背面液晶モニターで拡大して驚きました。レンズに手ブレ補正VRもないのに、まったく問題なく写っていたのです。これでレンズもボディも、今度は使えそうだと正直な印象を持ちました。明日香さんは、高田馬場のギャラリーバー『26の月』のオーナーです(2014年7月31日まで)。12年と10カ月続けたというお店がクローズするというので、1枚撮らせてもらいました。気持ちよく撮影させてくれたのはさすが、大学生のころから写真サークルで腕を磨いた、写真関係人だと思うのです。
【作例2:ボトルをアップ】 やはり作例1と同じ店内で、ボトルを近接してみました。撮影条件は一緒で、文字のシャープさを見て納得したのです。明らかに今までと違う描写です。感度はISO800に設定していますが、シャッター速度は1/20秒ですから、やはり手ブレ補正機構VRのないレンズとの組み合わせでもかなり安定しているのが驚きです。正直、やればできるじゃない!という印象です。そういえば、『26の月』に来る直前、メディアを入れる前に室内で、手持ちで2mぐらい先のエンピツ書きをISO100で絞り開放F2でテスト撮影して、最大限背面液晶モニターで拡大したときの文字のシャープさとエンピツのかすれ具合を見た、写真仲間の宝槻さんは、急にそわそわして帰宅されたのです。どうしたのかと後で聞くと、手元のD800Eを手放し、D810の注文を自宅に戻り即入れたそうです。
【作例3:駅前のYS-11】 D810が発売されたタイミングでは、まだ梅雨は空けていませんでした。それでも午前中だけの青空を求めて無限遠撮影を試みてみました。フォーカスポイントは、マンション屋上の棟屋ですが、棟屋そのものもそうですが、絞りF5.6で避雷針やアンテナ、さらには屋上の手すりも必要十分な解像だと思うのです。






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