【作例1】サクラの花。絞りF1.5・1/500秒、ISO100(画像をクリックすると画素等倍まで拡大して見られます)
●撮影してみると
撮影にあたっては、まずグルグルボケ描写をいかに効率よく発生させるかに最初は腐心しました。その結果得られたのが、【作例1〜作例7】です。いずれもグルグル巻きのボケが激しく発生していますが、撮り込んでくるとこのようなシーンを発生させるのは事前に予測でき、わりと簡単に撮影できます。グルグルボケを発生させるためには、絞りはなるべく開いた方が良い、ピントを合わせる主要被写体をなるべく手前に置く、背景は距離を離して細かい物が雑然と存在する方が良い。こんな程度ですが、絞り込むと収差が軽減するため当然のこととしてグルグルボケはおとなしくなってきます。
【作例2】ドウダンツツジの花。絞りF1.5・1/3200秒、ISO100(画像をクリックすると画素等倍まで拡大して見られます)
【作例3】ドウダンツツジの花。絞りF5.6・1/800秒、ISO100(画像をクリックすると画素等倍まで拡大して見られます)
【作例2】と【作例3】絞り開放F1.5とF4と変化させたときの違いであって、手前の主要被写体に対する深度とシャープさ、背景のグルグルボケを抑えたいようなときには、絞り込むとよいでしょう。なお使用ボディはマイクロ4/3ですから、写した結果からすると、35mm判フルサイズ換算で、画角的には約50mmの標準レンズを使ったのと同等になります。
【作例4】夕暮れ。絞りF1.5・1/50秒、ISO100、−0.3EV(画像をクリックすると画素等倍まで拡大して見られます)
【作例4】は、背景に信号機を配した夕暮れでの撮影です。グルグルボケが激しくでていて、このあたりがキノ・プラズマートの使い方としては、今日的に最も効果的なところでしょうか。もちろん、女性にはこちらを向いてもらい、背景は信号や車のバックライトでなく、多数の点光源などを含むイルミネーション、さらには木漏れ日の下でのポートレイト撮影をするのが最高に良い設定かもしれません。このような背景のボケの暴れは、現代の一般レンズにはないものであり、キノ・プラズマートの最も魅力的な部分であると考えます。
【作例5】ツツジの花。絞りF1.5・1/125秒、ISO100、−0.3EV(画像をクリックすると画素等倍まで拡大して見られます)
【作例5】奥行きのある被写体の手前側にピントを合わせ、後ボケに加えて、前ボケも見えるようにと撮影しました。ここで注目される点は、背景はお決まりのグルグルボケが発生していますが、前ボケは大きく画面外側に向かったフレア的なボケを示していることです。このあたりの2つのボケ効果を生かした作例ができれば面白いのですが、深追いはやめました。
【作例6】英国大使館正面玄関。絞りF5.6・1/125秒、ISO100、−0.3EV(画像をクリックすると画素等倍まで拡大して見られます)
【作例6】それならば、いつもの英国大使館正面玄関はどうだろうということで、晴天の日に、いつもの時間(午前10:30頃)に撮影しました。これを見て思うのは、一見して深度が浅いのではないだろうかと思ったことです。絞りは、このシーンでの絞り値はいつもF5.6と決めてあり、今回は絞り目盛りの関係から近似のF6に設定ましたが、焦点距離からすると前後にボケが多いことからそのように考えたのです。ところがボケている部分が周辺に位置していることから、本来このキノ・プラズマートの目指した画像面積は、実際はかなり狭いのではと考えました。したがって、この場面で見る周辺の画像はアウトフォーカスのボケではなく、画像の崩れであることがわかります。
【作例7】インドカレー屋さんの店先。絞りF1.5・1/40秒、ISO100、−0.3EV(画像をクリックすると画素等倍まで拡大して見られます)
【作例7】通常の近接撮影ということで、骨董具を置いてあるインド大使館横のカレー屋さんの店先で、木馬の足の部分にピントを合わせましたが、夕方でしたので絞りはF2.8と控えめにしました。このシーンからわかることは、グルグル巻きの描写ではなく、わりと深度が浅く、英国大使館の撮影と同じで、前ボケはマネキンのボディと籐のかごの取っ手はフレアが目立ちますが、後ボケはまったくボケに暴れがなく、素直な描写を示したのが意外でした。さらに絞り込めば、よりシャープに良像面積はさらに増大するであろうことは予測できます。
【作例8】スナップの名手、柳沢保正さん。絞りF1.5・1/30秒、ISO160、−0.3EV(画像をクリックすると画素等倍まで拡大して見られます)
【作例8】絞り開放F1.5で、写真界の大先輩である柳沢保正さんを撮影させてもらいました。実は、このシーンでは背後に光源のある所をわざわざ選んでシャッターを切り、モニターを見てびっくりしました。わずかに口径食の球形が周辺に写り込んでいますが、このレンズのお得意とするグルグル巻きのボケは発生していません。柳沢さんは、かつては『すべてのレンズはライカに通ず』という本を執筆されるなどフランジバックの短いカメラを礼賛していたのですが、最近はさらにフランジバックの短いミラーレス機「ルミックスG1」と「ソニーα7」の虜になり、連日都内をスナップして歩いているという尊敬する御仁です。
【作例9】本と花。絞りF1.5・1/30秒、ISO160、−0.3EV(画像をクリックすると画素等倍まで拡大して見られます)
【作例9】同じく絞りF1.5開放で、柳沢さんの脇にあった、本のエッジをねらってみました。柔らかさのなかにも十分なシャープさを感じる描写です。こちらもそうですが、背景の花、さらに奥にいる人物の顔も素直に気持ちよくボケています。このあたりが本来のキノ・プラズマートの描写なのでしょう。昨今のレンズには、わざとグルグル巻きのボケを発生させるレンズも登場していますが、まさかルドルフがそのようなそのような将来を見越して、キノ・プラズマートを設計したというようなことはないだろうと思うのです。
【作例10】桜田濠のビル群。絞りF8・1/300秒、ISO100、−0.3EV(画像をクリックすると画素等倍まで拡大して見られます)
【作例10】近距離の描写に対して、無限遠の再現はどうだろうと絞りをF8にして皇居半蔵門脇から桜田濠の先にそびえるビル群を撮影したのがこのカットです。画角とカメラの露出特性から、−0.7EVの補正を加えてありますが、中央のビルの壁面を拡大して見るとおわかりのように、絞り込まれた結果も含んでいるでしょうが、画面中央部の解像度はかなり高いことが読み取れます。