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【作例11】沼田の1本サクラ。絞りF8・1/1300秒、ISO100、−0.3EV(画像をクリックすると画素等倍まで拡大して見られます)

 【作例11】群馬県の沼田市の畑の中の小山の上に咲く1本桜です。左下には赤い前掛けをかけたお地蔵さんがいて、いっそうこの場の雰囲気を盛り上げてくれました。絞りはF8にセットしましたが、このカットからも周辺光量の低下、画像の崩れなどから、もともと目指した良像エリアはかなり小さいことがわかります。この桜の木、たまたま同じ群馬県の伊香保に行き、朝から快晴だったので、Googleに「近くのきれいな桜の木」としゃべったら、教えてくれ、道案内してくれたのです。レンズは100年前のものですが、カメラを含め世の中は便利な時代になりました。

【作例12】テディベアのシール。絞りF2.8・1/4000秒、ISO100、−0.3EV(画像をクリックすると画素等倍まで拡大して見られます)


【写真4】マイクロ4/3(17.3×13mm)の画面に16mmシネ(10.26×7.46)の画面を重ねてみました(画像をクリックすると大きくして見られます)

 【作例12】英国大使館の塀に蛾が止まっているのではと目を凝らして見ると、テディベア?のシールでした。誰か、子供が張り付けたのでしょうか。石の平面チャートのようでしたので、絞りF2.8で撮影してみました。結果としてマイクロ4/3の画面に対するキノ・プラズマートのイメージサークルは実は大変小さいということが簡単にわかる作例となりました。ちなみにマイクロ4/3の画面サイズは17.3×13mmで、16mmシネの画面サイズ規格が10.26×7.49mmなので、せっかくですからこのカットに16mmシネの画面サイズを重ね合わせてみました【写真4】。さらに念にはということで、キノ・プラズマート1インチF1.5の付いていた同年代の16mmシネ「BOLEX AUTO-CINE CAMERA MOD. B」のアパーチャーゲートを実測してもらうと12.0×7.5mmだというのです。
 つまりキノ・プラズマートの画像は、もともと広範囲をカバーするようには設計されていなかったのです。これではグルグルボケが発生するのも当然です。レンズのイメージサークルは、絞り込むと拡大するタイプと、絞り込んでも広がらないタイプがありますが、キノ・プラズマートはどちらかというと後者に属するタイプと考えられます。いずれにしても今回のキノ・プラズマート25mmF1.5は、通常の画像を楽しむなら同じレンズ交換式でも撮像面積の狭い、ニコン1(1型、8.8×6.6mm)やペンタックスQ(1/2.3型、6.2×4.9mm)を、グルグル巻きを楽しむならマイクロ4/3やAPS-C判で作画するのがよいでしょう。

【写真5】ペンタックスQ10に装着したキノ・プラズマート25mmF1.5(画像をクリックすると大きくして見られます)


【作例13】雨降りの後(ペンタックスQ10で撮影)。絞りF2.8・1/250秒、ISO100(画像をクリックすると画素等倍まで拡大して見られます)

 参考までにペンタックスQ10【写真5】にキノ・プラズマートの1インチF1.5を付けて撮影した例を【作例13】示します。絞りF2.8にしましたが、特に背後には、グルグルと巻いたようなボケはなく、ごく普通のレンズです。なお、同じCマウントシネ用レンズであるアンジェニュー25mmF0.95は、作例には示しませんがマイクロ4/3のカメラに装着すると4隅がかなり激しくケラレます。アンジェニュー25mmF0.95を使うには、最初からニコン1かペンタックスQ10を使うのが良いでしょう。

●キノ・プラズマートの魅力は
 さて現代におけるキノ・プラズマートの魅力を考えてみると、1)古典レンズとして著名なレンズ設計者であるDr.パウル・ルドルフの作である、2)製造本数が少ないため市場に出回っているのがわずか(市場原理によりコレクターズアイテムとなり高価)、3)良像範囲外の背景のボケ描写がぐるぐる巻きの描写をするのが好き、などが考えられます。
 ところで今回の撮影したデータは、他のクラシックレンズと同じように撮影された画像は、多少コントラストが弱く、画面全体にモヤがかかったような感じになりました。もちろん製造直後のようにレンズ面をクリアに清掃すればヌケのよい画像が得られるのですが、完全にクリーニングするのは難しいのです。そこで画像処理ソフトで“レベル補正”を施すことにより、ほとんどの場面で色鮮やかなヌケのよい画像が得られるのです。私は、簡単にするために自動レベル補正をかけるのですが、階調域が狭くなったり、ときには色調が異なってしまうことなどもあるので、すべての場面で有効というわけにはいきません。このような場合には、マニュアルでレベル補正を加えていくのですが、被写体やライティング状態によっては、まったく処理を施さなくてもよい場合があります。今回は、【作例2】と【作例3】は光線状態がよかったので、レベル補正をまったく加えていいません。そのほかはすべて自動レベル補正をかけてあります。
 このキノ・プラズマートを作った会社はどのような光学メーカーだったのでしょうか。1896年、眼科医Hugo Meyerらによりドイツのゲルリッツにヒューゴ・メイヤー社として設立されました。1920年、プラナーやテッサーを設計した元カール・ツァイスのレンズ設計者パウル・ルドルフの入社によりメイヤー・オプティックは特許を取得したプラズマートやトリオプランなどを製造し全盛の時代を迎えました。
 第2次大戦後、同社は東ドイツでVEBペンタコンおよびカール・ツァイス・イエナの共同体に統合され、1971年以降にはMeyer-Optik社の名はなくなりました。このうち戦前もののトリオプランは数が少ないため、あまり見かけませんが、戦後のトリオプランはエキザクタやプラクチカ用の交換レンズとしてたくさん出回っていましたが、昨今のシャボン玉ボケが得られるレンズとしてドイツを始めとしたヨーロッパでも人気なのです。
 このような状況もあってでしょうか、2014年9月のフォトキナでMeyer-Optik-Gorlitzの名でトリオプランが復刻展示され、同年12月に販売を開始されましたが、戦後のメイヤー・オプティックが引き継がれたというよりは、新しくメイヤー・オプティック・ゲルリッツの名で会社が興されたとみるのが妥当だと考えます。  そしてこの時期は一部に変わったボケを示すレンズが人気ですが、今回のキノ・プラズマートに加え、昨今話題のトリオプランもメイヤー社の製品だということが注目されます。トリオプランの特徴は、背景のシャボン玉ボケですが、今回使用したキノ・プラズマートはグルグルボケのレンズなわけです。クラシックレンズに造詣の深い岡田祐二さんによると、新メイヤー・オプティック社はAPO-Makro-Plasmat 127mmF2.7のクラウドファンディングを開始したので、その次にはキノ・プラズマートが復刻されるのも間違いないだろうということですので、楽しみなことです。
 最後に、同じパウル・ルドルフが設計したプラナーやテッサーに比べて、キノ・プラズマートはどのように評価されるのでしょうか。戦争によって東と西に分断された企業の悲劇だったのでしょうか、このあたりの検討は光学産業史を研究されている方に譲りたいと思います。なお今回のレポートを書くにあたり、キノ・プラズマートレンズを長期にわたり貸し出してくれた森亮資さん、ペンタックスQ10とアンジェニュー25mmF0.95を貸してくれた神原武昌さん、キノ・プラズマートの資料を調べてくれた岡田祐二さん、当時の16mmシネカメラのアパーチュアを実測してくれた原昌弘さんに感謝いたします。
(20180505)


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