■広角なのにレンズが長い
この種の非レンズ交換機には超広角レンズの搭載を望む声が一般的には多いのですが、もともとかなり形状的に個性豊かなdpクアトロシリーズボディに加え、dp0クアトロ【写真1〜3】では独特な光学系を採用して超広角なのに焦点距離の長い望遠よりもレンズ部分が長いのです。そのあたりが、写りにどのように関係してくるのでしょうか。
【写真1】シグマdp0クアトロの標準セット。(画像をクリックすると大きく見られます)
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【写真2】オプションの光学ファインダーを取り付けたシグマdp0クアトロ。(画像をクリックすると大きく見られます)
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【写真3】オプションのLCDビューファインダーを取り付けたシグマdp0クアトロ。この状態で光学ファインダーを取り付けてものぞくことはできません。(画像をクリックすると大きく見られます)
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【図1】シグマdp0クアトロの14mmF4撮影光学系、8群11枚構成の断面。(画像をクリックすると大きく見られます)
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【写真4】ライカM6TTLに装着されたスーパーアンギュロン21mmF4。(画像をクリックすると大きく見られます)
【写真5】リコーGR21。レンズは21mmF3.5(画像をクリックすると大きく見られます)
まず、21mm相当画角といってもdpクアトロシリーズのフォビオンセンサーはAPS-C判なので、実際に搭載されているレンズは14mmF4となります。シグマによると、光学系としては8群11枚構成【図1】で、このうち2枚が非球面レンズ、4枚がFLD(Fluorite;蛍石なみの低分散)ガラス、SLD(Special Low Dispersion;特殊低分散)ガラスを2枚使うなど、かなり贅沢な組成です。しかしそれにしても、同じAPS-Cのイメージサイズなのになぜ、焦点距離75mm相当、45mm相当より広角の21mm相当のdp0クアトロのほうがレンズの全長が長いのでしょう。デジタルの時代になって新たに設計されるレンズはその傾向が強いようですが、フィルムカメラの時代にはライカ判フルサイズと画面サイズは大きくても、そのようなことはありませんでした。
35mmフィルムカメラの時代の21mmレンズ搭載のカメラで僕のお気に入りは、ライカに“スーパーアンギュロン21mmF4”【写真4】を取り付けたのと“リコーGR21”【写真5】でした。写真をご覧になっておわかりいただけるように、画面サイズの”大きいライカ判フルサイズなのにどちらもレンズの先端はボディからあまり出っ張っていないのです。つまりデジタルになるとこのようなフラットな光学系ではなくなるのです。これはシグマのコンパクト機であるdpクアトロシリーズだけのことではなく、レンズ交換式のライカやミラーレス機などでは共通した問題なのです。これは撮像素子とレンズに関連していて、つまりフィルムカメラの時代にはなかったデジタルカメラならではの独自な現象なのです。
簡単にその理由を説明しますと、撮像素子に入るレンズからの光線は平行で垂直に入るほうが効率よく、このような光学系をテレセントリック性が高いといいます。また撮影レンズ後端から撮像素子面が近いと画面周辺の光線は斜めに入ることになり、効率よく光線を受けることができないのです。そのような結果として、画面周辺の光量が極端に不足したり、周辺がマゼンタ色に偏色したり、さらに画面端の被写体に紫や緑色の輪郭が発生したりすることがあるのです。
それでは一眼レフカメラの広角はどうだろうかということになりますが、一眼レフカメラは構造的に光路中にメインミラーがあるためにレンズ最後部と撮像面の距離(メカニカルバック)を長くとらざるを得なかったためにメカニカルバックを長くとれるレトロフォーカス(逆望遠)タイプが当初から採用されていたのです。
だいぶ回りくどくなりましたが、デジタルでは広角とりわけ超広角になればなるほどこの種の問題は重要となってきます。またシグマdp0クアトロでは、超広角レンズとしては避けがたい倍率の色収差と歪曲収差を極力なくしたということでdp0(ゼロ)という名称がつけられたといわれていますが、デジタルの超広角専用機として十分な画質得るために上記のようなテレセントリック性の高い、つまり光束の直線性を大切にした光学的に長いレンズ構成を採用したというのです。
【写真6】(画像をクリックすると大きく見られます)
ちなみにdp0からdp3まで各機種のレンズ先端から撮像面までのおおよその寸法を測ってみると、dp0(14mmF4)=90.5mm、dp1(19mmF2.8)=52mm、dp2(30mmF2.8)=46.5mm、dp3(50mmF2.8)=67.5mmとなるのです。これでおわかりのように望遠のdp3より超広角dp0のほうが23mmも長いのです。いかにディストーションを極力少なくしてデジタル対応とさせるために特別に光学設計に配慮したかがよくわかります。【写真6】には、dpクアトロシリーズをラインナップしました。
■写してみたら
さて、実際はどうなのでしょう。以下に撮影した結果を紹介しましょう。
なお、撮影データ中にある“AWB(残し)”とは、dp0クアトロで初めて加わった機能で、その場の光源色をわずかに残したオートホワイトバランスということで、通常のAWBとは別に設定できます。
【作例1:英国大使館正面玄関】絞り優先AE(F5.6・1/800秒)、ISO100、AWB、Jpeg.Fine(5424×3616)、三脚使用。(画像をクリックすると画素等倍で見ることができます)
【作例1:英国大使館正面玄関】
長い梅雨の合間、まるで待ちかねたように発売日の7月10日にはみごと晴天となりました。お決まりの場所でのファーストショット。建物の上部壁面には英国の誇る“マクラーレンF-1”の看板が取り付けられていますが、ここ数年にはなかった光景です。ピントはいつもと同じように建物中央上部のエンブレムに合わせてあります。画像はフォビオンならでの高画質はいうまでもありませんが、大きく拡大する以前にモニター画面枠に合わせた状態で見ると、妙にすっきりとした印象です。たぶん、ディストーションのない描写が、そのように感じさせたのでしょう。
絞り優先AE(F5.6・1/800秒)、ISO100、AWB、Jpeg.Fine(5424×3616)、三脚使用。
【作例2:赤い滑り台】プログラムAE(F10・1/200秒)、ISO100、AWB、Jpeg.Fine(5424×3616)、手持ち撮影。(画像をクリックすると画素等倍で見ることができます)
【作例3:チャート的なマンション】
プログラムAE(F10・1/200秒)、ISO100、AWB、Jpeg.Fine(5424×3616)、手持ち撮影。(画像をクリックすると画素等倍で見ることができます)
【作例2:赤い滑り台】
近所の千鳥ヶ淵公園を歩いていたら目にもまぶしいばかりの赤い滑り台を見つけました。太陽がギラギラと照りつけていましたが、ストレートに正面から狙ってみました。滑り台自体は合成樹脂でできているようで、外観的には光沢感をかなり感じさせますが、赤の部分の色はまずまず近い感じに再現されました。太陽光が照りつける反射部分が白く抜けてしまったのはあまりにも輝度差が大きすぎるために致し方ないだろうと考えましたが、画素等倍に拡大して見ると、白く抜けたハイライト部分の中に細かく滑り台表面のスリキズが見えます。
プログラムAE(F10・1/200秒)、ISO100、AWB、Jpeg.Fine(5424×3616)、手持ち撮影。
【作例3:チャート的なマンション】
dp0を持ってぶらぶらと歩いていて見つけた細かいタイルが貼られたマンションは、格好のチャートとなります。平面ではありませんが、それぞれの壁面に貼られたタイルは画素等倍で見ても、クセもなく微細に再現されています。その画素等倍で、画面左端の白いビルの窓枠のエッジを見ると倍率の色収差によるであろうフリンジの発生をかすかに見ることができますが、この程度の発生なら焦点距離のわりにはかなりよく補正されているレベルだろうと思うのです。なお、フリンジは被写体との兼ね合いで発生してくるもので、白いビルならではの現象であると思うのです。また、撮影時にRAWデータで撮影していれば、ソフト的に目立たなくすることもできますが、画素等倍というプリントサイズは畳1枚を楽に超える大きさなので、非現実的であり、実用上はまったく無視してよいレベルです。
プログラムAE(F10・1/200秒)、ISO100、AWB、Jpeg.Fine(5424×3616)、手持ち撮影。
【作例4:公園の注意書き】プログラムAE(F6.3・1/50秒)、+0.7EV補正、ISO100、AWB、Jpeg.Fine(5424×3616)、手持ち撮影。(画像をクリックすると画素等倍で見ることができます)
【作例4:公園の注意書き】
千鳥ヶ淵公園を歩いていたら、時節柄いかにもという注意書き看板を見つけ、珍しさだけでシャッターを押したので、写真内容としては特におもしろくはありません。しかし撮影直後背面液晶モニターの画像を見てびっくりしました。まったく超広角21mm画角で撮影したことを感じさせないのです。その原因をいろいろと考えてみましたが、近接でもディストーションが極端に少ないとこのように見えるのだろうと考えました。
プログラムAE(F6.3・1/50秒)、+0.7EV補正、ISO100、AWB、Jpeg.Fine(5424×3616)、手持ち撮影。