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市川泰憲(写真技術研究家、日本カメラ博物館)

  市川 泰憲(いちかわ やすのり)
1947年東京生まれ。中学・高校・大学と写真部に所属。1970年東海大学工学部光学工学科卒業。同年写真工業出版社入社、月刊「写真工業」編集長を経て、2009年より日本カメラ博物館に勤務しながら幅広い写真活動を続ける。日本写真協会会員。

■ブログ「写真にこだわる」開設しました
http://d.hatena.ne.jp/ilovephoto/

第四十一回「ペンタックスK-1を使ってみました」

【写真1】ペンタックスK-1、HDペンタックス-D FA 28〜105mmF3.5-5.6ED DC WRを装着(画像をクリックすると大きくして見られます)

 ペンタックスK-1は、フルサイズ機であると同時に3,640万の高画素機でもあるのです。この3,640万画素近似の高画素撮像素子を搭載した一眼レフとしては2012年に発売されたニコンD800、D800Eが最初です。この2機種は2014年には改良統合されD810へと引き継がれました。この間、一眼レフではありませんが2013年に発売されたミラーレスのソニーα7Rも同等の高画素撮像素子を使っていました。つまり、3,600万クラスフルサイズ機が登場して4年経過したのです。そしてペンタックスK-1が登場。この間、先行高画素機にはさまざまな技術進歩がありました。フルサイズであると同時に高画素機、そんな視点をもって、ペンタックスK-1【写真1】を眺めてみました。
 実は高画素機で最初のモデルが登場したとき、あくまでも僕自身の問題ですが、撮影に大変神経質になり、いつも頑丈な三脚を携えて撮影というわけで、一眼レフ本来の軽快さとは裏腹に、1枚ずつ同じシーンで複数回シャッターを切ったり、ミラーアップしてレリーズ撮影というようなことをしていました。
 そして2年後に発売された、高画素機ニコンD810とキヤノンEOS5Ds/EOS5DsRでは、一眼レフならではのミラーショックを軽減することを目的としたミラー駆動をモーターで行う新機構が導入されました。そしてこの時期から、僕は高画素機でも気軽にシャッターを切ることができるようになったのです。ということで、より個人的ですが、K-1は同じ高画素一眼レフとしてどれだけ手持ちで、気軽にシャッターを切って問題なく撮影できるかというのが、僕が最初に知りたいところでした。

【写真2】ペンタックスK-1の機構的特徴である「フレキシブルチルト式液晶モニター」は、ライブビュー撮影で威力を発揮する(画像をクリックすると大きくして見られます)

 もちろん一眼レフが問題なく作動するというのは、ブレなく、AFやAEが適切に作動をするかということになるのですが、手ブレ補正機構の有無、レンズの明るさ、絞り値の設定、撮影感度がいくつかなど、さまざまな要素が組合さって撮影結果がでてくるのですから、簡単に判断することはできません。それでもあえて最初にいってしまえば、K-1はきわめて軽快に気楽にフルサイズ機としての撮影ができました【写真2】。細かいことに関しては、それぞれの撮影の場面で触れていくことにします。
 撮影レンズは、K-1にとっては最もスタンダードな「HDペンタックス-D FA 28〜105mmF3.5-5.6ED DC WR」を使用。このレンズは3.75倍のズームで、K-1の発売直前の4月下旬に登場しました。外観はおとなしいですが、11群15枚構成、非球面レンズ2枚、特殊低分散ガラス、異常低分散ガラスを各1枚使い、球面収差と色収差の除去に配慮されたフルサイズ機用高画質レンズです。

■実際に撮影してみる
 基本的には、いつもと変わらない撮影チェック場所を押さえて、今回は使用を夏季休暇のタイミングに合わせることができましたので、3泊4日の東北旅行にペンタックスK-1を同行することにしました。


【作例1:英国大使館正面玄関】焦点距離34mm、絞り優先AE、F5.6・1/1000秒、ISO AUTO 200、AWB、三脚使用(画像をクリックすると画素等倍まで拡大して見られます)

●作例1:英国大使館正面玄関
 いつものシーンです。梅雨明けを待って撮影しましたが、この日ほど、やはり写真の写りぐあいは、天候に大きく依存するのだなとつくづく知らされました。わりと浅めの空色ですが、露出補正もしなくノーマルのままでのクリアで感じのよい発色です。撮影は、これまたいつものように焦点距離約35mm、絞りF5.6に設定して、建物中央上部のエンブレムに合わせてあります。シャッターは、同じ条件で最低5回以上切り、画素等倍に拡大した中からベストなカットを選んでいます。焦点距離は撮影画角を他機種とだいたいそろうようにして35mm、絞りはF5.6です。結果はご覧のとおりで、画素等倍に拡大して見てもエンブレムを含め高画素機らしくしっかりと描写されています。もちろんこの描写力は、撮影レンズの性能にも依存するのですが、ズームレンズながらしっかりと描写されています。特に左右門柱の英国大使館の金属プレートの文字は克明に写しだされています。
≪撮影データ≫焦点距離34mm、絞り優先AE、F5.6・1/1000秒、ISO AUTO 200、AWB、三脚使用
 本シリーズでは、他のカメラでも、撮影日時は違いますが、ほとんど同じ条件で英国大使館正面玄関を定点撮影してありますので、バックナンバーで他機種と比較してご覧ください。


【作例2a:いつものマンション壁面】歪曲補正なし:焦点距離28mm、プログラムAE、F7.1・1/250秒、ISO AUTO 100、AWB、手持ち撮影(画像をクリックすると画素等倍まで拡大して見られます)

【作例2b:いつものマンション壁面】歪曲補正あり:焦点距離28mm、プログラムAE、F7.1・1/250秒、ISO AUTO 100、AWB、手持ち撮影(画像をクリックすると画素等倍まで拡大して見られます)

●作例2a、作例2b:いつものマンション壁面
 マンションの立体感ある壁面を撮影することにより、解像力、質感描写、収差などを見ることができます。この撮影は今回2回出向きました。実は1回目でもうまく撮影できたのですが、どうも茶色いマンションの壁面の左右の稜線(写真をご覧いただくと意味がおわかりいただけると思います)が、ふくらんで見えるのです。つまりディストーションが発生していたのです。ズームレンズで広角28mm側ということでは、ある程度はいたしかたないのですが、やはり気になりますので、ボディのメニューからレンズ補正の“歪曲補正”をONにしてみました。【作例2a】は歪曲補正をOFFに、【作例2b】は歪曲補正をONの画像を示しました。
 ご覧のように【作例2b】は歪曲補正ONの状態ですが、稜線のふくらみはみごと消えています。作例1の英国大使館の撮影では、歪曲補正はOFFのままでしたが、歪曲は気になりませんでした。しかしこの先さまざまな場面で撮影していくことを考え、以後歪曲補正はONでいくことに決めました。このほかレンズ補正には、周辺光量補正(OFF)、倍率色収差補正(ON)、回折補正(ON)がありますが、それぞれ()内に示すように設定しました。
 画素等倍にして見るマンション壁面の描写特性は、3,640万画素らしい解像感であり、さらに左右のマンションの窓枠を見ると倍率の色収差もでていないので、レンズの基本性能が十分に発揮されているか、レンズ補正の倍率色収差補正ONが十分に機能しているのかとみました。いずれにしても専用レンズならではの描写特性といえます。
≪撮影データ(a、bとも共通)≫焦点距離28mm、プログラムAE、F7.1・1/250秒、ISO AUTO 100、AWB、手持ち撮影


【作例3:八国山遠望】焦点距離28mm、絞り優先AE、F8・1/200秒、ISO AUTO 200、AWB、三脚使用(画像をクリックすると画素等倍まで拡大して見られます)

●作例3:八国山遠望
 東京都と埼玉県の境にある丘陵地帯にある八国山。かつて、この頂きから関東の8つの国が見渡せたというのですが、こちらもいつもの定点観測地点です。無限遠位置にある樹木の葉にAFでピントを合わせて、葉の切れ込み具合などから解像力や画像の平坦性を読み取るのですが、画素等倍で見たときに、わずかに木々の葉の切れ込みに甘さを感じますが、最広角の28mmということを考えると、周辺までくずれは少なく、同じ調子ですし、もともと画素等倍という現実のプリントにはありえない拡大率で見ているので、実際の写真レベルではまったく問題のない必要十分な描写だと考えます。
≪撮影データ≫焦点距離28mm、絞り優先AE、F8・1/200秒、ISO AUTO 200、AWB、三脚使用


【作例4:ハスの花(1)】焦点距離105mm、プログラムAE、F7.1・1/250秒、ISO AUTO 100、AWB(画像をクリックすると画素等倍まで拡大して見られます)

●作例4:ハスの花(1)
 八国山の森の手前にはハス池とショウブが植わっている田んぼ(湿地)があるのですが、K-1を持参したときにタイミングよくハスの花が咲いていました。中央の花のメシベにピントを合わせましたが、画素等倍に拡大して、その部分と額を見るとまさに高画素タイプの描写です。
≪撮影データ≫焦点距離105mm、プログラムAE、F7.1・1/250秒、ISO AUTO 100、AWB


【作例5:ハスの花(2)】焦点距離105mm、プログラムAE、F10・1/400秒、ISO AUTO 200、AWB(画像をクリックすると画素等倍まで拡大して見られます)

●作例5:ハスの花(2)
 上の花と同じ焦点距離ですが、早朝の斜光線が花びらに当たり、透過した感じが美しいのでシャッターを切りました。また、背後の水面に光り輝く光芒の形がほぼ真円を描いているのがくせのない描写特性をこのレンズがもっていることを示しています。
≪撮影データ≫焦点距離105mm、プログラムAE、F10・1/400秒、ISO AUTO 200、AWB


【作例6:切り株のキノコ】焦点距離48mm、プログラムAE、F9・1/250秒、ISO AUTO 200、AWB(画像をクリックすると画素等倍まで拡大して見られます)

●作例6:切り株のキノコ
 撮影の帰り道、畑のわきに残されていた木の切り株の上に生えているキノコがきれいでしたので、適度に近寄ってシャッターを切りました。画素等倍に拡大して見ると、笠の表面がまるで食用のシイタケのような描写をしているので、驚きました。高画素機とレンズ性能がうまくマッチした結果だと思うのです。
≪撮影データ≫焦点距離48mm、プログラムAE、F9・1/250秒、ISO AUTO 200、AWB


【作例7:商家住宅の“のれん”】焦点距離45mm、プログラムAE、F4・1/60秒、ISO AUTO 200、AWB(画像をクリックすると画素等倍まで拡大して見られます)

●作例7:商家住宅の“のれん”
 旅先の青森県黒石市の古い街並みが残る小見世通り商家高橋家住宅ののれんです。正面からねらっていたところ、風が吹き込んでひらりと舞ったところでシャッターを切りました。色調はノーマルの設定ですが、とくに派手に再現されたということもなく生地の色も自然です。しっかりと屋号が記されていますから「店の暖簾にかかわる」とは、こういうことをいうのでしょうね。
≪撮影データ≫焦点距離45mm、プログラムAE、F4・1/60秒、ISO AUTO 200、AWB


【作例8:商家住宅の“花嫁衣裳”】焦点距離40mm、プログラムAE、F4・1/15秒、ISO AUTO 3200、AWB(画像をクリックすると画素等倍まで拡大して見られます)

●作例8:商家住宅の“花嫁衣裳”
 通りを散策していて、さりげなくのれんをかき分けて入った土間のテーブルで地元農家手作りのりんごジュースをいただいた後に、薄暗い居間に飾られていた打掛を撮影させてもらいました。ISO 感度はAUTO設定で3200に自動的にアップしましたが、ノイズ感はまったくなく、見た目以上に明るく、色調、解像感とも素晴らしく描写されました。打掛は色違いで季節に応じ3種類あるとのことですが、この白地にきらびやかな金赤薄緑の絵柄は夏用だそうです。背後に見える屏風は100年以上前に描かれたそうですが、この渋さがきらびやかな打掛をいっそう引き立てています。高橋家の建物は江戸の中期に建てられた商家の住宅で、国の重要文化財に指定されています。
≪撮影データ≫焦点距離40mm、プログラムAE、F4・1/15秒、ISO AUTO 3200、AWB


【作例9:黒石市の「ねぷた」】焦点距離28mm、プログラムAE、F3.5・1/50秒、−1EV、ISO AUTO 400、AWB(画像をクリックすると画素等倍まで拡大して見られます)

●作例9:黒石市の「ねぷた」
 旅の一日目を終え、宿で食事の後、露天風呂に入っていると、遠くから「ヤーレヤーレヤー」というようなかけ声が聞こえてきました。時期的に、ねぷたの行列がくるのだろうと、入浴もそこそこ宿の前にK-1を持ってでると、あと少し待つと宿の玄関前まで行列がくるというので、待機して撮影した1コマです。露出は補正なしだと、ねぷたを引いている人たちや山車もほんのり写りいい感じなのですが、ねぷた灯籠の彩色された絵が露出オーバー気味になるので、−1EVの補正をかけました。このねぷたは昨年の優秀賞だそうです。灯篭そのものが、十分な明るさを持っているので、感度もさほどアップしなく、手持ちでも十分に撮影できました。彩色された灯篭は、色・ピントとも素晴らしく、路面など暗部の描写もノイズは感じさせません。
≪撮影データ≫焦点距離28mm、プログラムAE、F3.5・1/50秒、−1EV、ISO AUTO 400、AWB


【作例10:田んぼアート】焦点距離48mm、プログラムAE、F9・1/250秒、ISO AUTO 200、AWB(画像をクリックすると画素等倍まで拡大して見られます)

●作例10:田んぼアート
 青森県南津軽郡田舎館村の田んぼアート。田んぼをキャンバスに見立て、7色の稲を使い分けて植えて絵を描いてあります。今年のテーマはゴジラと真田丸だそうで、この写真は、道の駅いなかだて「弥生の里」展望台から俯瞰し、上部に地平線を入れて撮影しました。稲の部分を画素等倍にしてみると、フォーカスエリアの設定にもよりますが、手前のほうが1本、1本がきれいに分解して見えます。ここまで拡大すると、F9にまで絞られてもパンフォーカス的な描写にならないのは、デジタルならではの描写特性です。
≪撮影データ≫焦点距離48mm、プログラムAE、F9・1/250秒、ISO AUTO 200、AWB



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