≪写真2≫トリミングしていない新タンバールの画像。絞り開放F2.2(画像をクリックすると大きく見られます)
■新旧タンバールで写してみたら
今回の撮影は、ソフトフォーカスレンズは描写が軟調画面であることから、EVFの結像画面でピントを合わせるよりは、連動距離計で撮影したほうが素早く確実なピント合わせを行えるだろうということで、ライカM9を使い撮影してみました。とはいってもレンジファインダーのピント合わせターゲットは中央部にあるために、縦位置でモデルさんの目に合わせてそのまま撮影すると上部が大きく開いてしまうことになります。この問題はトリミングすれば解決するのです。ところで、全画面を見るとおわかりのように、≪写真2≫に示すように4隅が減光しているのです。これは新旧タンバールに共通した特性でした。
≪写真3≫トリミングしていない新タンバールの画像。モデルさんは異なりますが、背景に絵柄があれば、周辺減光も気になりません。新タンバールの画像。絞り開放F2.2(画像をクリックすると大きく見られます)
最初はライカM9という機体固有の特性かとも考えましたが、同じシーンで同時に撮影したフルサイズミラーレスのライカSLでも、度合いは異なっても周辺減光は認められましたので、カメラボディに依存すると考えるよりは、レンズの特性によるだろうと考えるのが妥当です。ただしこれは、あくまでもこの2機種間の問題であって、レタッチソフトによりビネッティング補正を施したり、ソニーα7シリーズに見るように機種が変わり撮像素子のタイプが変われば、一気に解決してしまうこともあるわけですし、さらにいうならば、撮影シーンをフラットな背景紙でなく一般的な場所≪写真3≫にしたり、絞りを少し絞り込めば、周辺減光は少なくなるということも確かなことです。
いずれにしても復刻版をどのようにとらえるかは、ライカカメラ社の考えによるわけですが、現代的にあまり修正を加えていないのだろうと思うわけです。
≪作例1≫新タンバール・センターフィルターあり:絞り優先AE、絞り開放F2.3・1/200秒、ISO160(画像をクリックすると画素等倍にして見られます)
≪作例1≫ 新タンバール・センターフィルターあり:絞り優先AE、絞り開放F2.3・1/200秒、ISO160。確かにフィルターなしよりは軟調度はわずかながら高いことがわかります。露出はF2.2とF2.3では表示の許容差ぐらいであって、Exifのシャッター速度表示としては変わりないことがわかります。なお、作例は、視覚的な効果を考慮し画面上部をカットして掲載しましたが、減光の感じは画面下部には残っています。
≪作例2≫新タンバール・センターフィルターなし:絞り優先AE、絞り開放F2.2・1/200秒、ISO160(画像をクリックすると画素等倍にして見られます)
≪作例2≫ 新タンバール・センターフィルターなし:絞り優先AE、絞り開放F2.2・1/200秒、ISO160。フィルターありに比べるとシャープさがわずかに増してはいますが、その差は微妙です。どちらが良いというようなことでなく、どちらが好みかということになりますが、僕はこちらのフィルターなしの方が肌の描写の感じと、髪の毛のソフト度のバランスからいうと好みです。ただし、あくまでもモニター画面で全体を拡大した条件でのことであり、もしA2などと大きく伸ばしたときには、鑑賞距離を含めて、好みの描写はまた変わるでしょう。
≪作例3≫オリジナルタンバール・センターフィルターなし:絞り優先AE、絞り開放F2.2・1/125秒、ISO160(画像をクリックすると画素等倍にして見られます)
≪作例3≫ オリジナルタンバール・センターフィルターなし:絞り優先AE、絞り開放F2.2・1/125秒、ISO160。新タンバールに比べると、軟調度が高いように感じる描写となっています。また露出は、1段弱多くかかっていますが、これは70年ほどの経時変化や時代による硝材の違いや、コーティングのあるなしなどによるであろうことは想像に難くありません。そして新旧での軟調度の違いは、ヌケの違いなどによるコントラストの違いからくる視覚的なものとも考えられます。この違いは、ヌケをよくするためにレタッチソフトでレベル補正を行うことなどにより、新タイプと近似な描写が得られるのではと考えます。
■奥深いタンバールの描写
≪作例4≫オリジナルタンバールによる夜景、撮影:柳沢保正さん(画像をクリックすると大きく見られます)
タンバールでの作品というと木村伊兵衛氏によるポートレイトがよく知られていますが、近年では写真工業の『ライカのレンズ』や『カメラレビュー』の児島昭雄氏によるタンバールレンズの解説が最もわかりやすいです。児島氏によると、このセンターフィルターは中央の光束を使っているので、装着した状態でF6.3より絞って撮影すると写らなくなる、センターフィルターを付けるとアウトフォーカス部のボケはドーナツ状になる、センターフィルターなしでF9より絞り込むと一般のレンズと同じようにシャープに写る、というのです。
今回の撮影はライカカメラ社の新タンバールに加え、旧タンバールは知人のライカファン田中啓一さんのものを拝借してというわけで、時間的な制約からこれ以上の検討は行えませんでした。また最近は、柳沢保正さんによるタンバールによる夜景の点光源の球状のボケ模様呈するのがカラーで新鮮だと注目を集めていますが、田中さんはすでにそのような描写が夜景だけでなく、明るい昼間でも発生することを確認しています。
ライカカメラ社によると、新タンバールは日本国内でも輸入したとたんにさばけるなど、売れ行きは好調だそうです。したがってこれから先の描写研究は、じっくりと使える所有者に許されるものだと考えますので、僕のレポートはこれにて終了とします。最後に、最近気になる柳沢保正さんによるタンバールでの夜景写真を≪作例4≫として掲載します。
(2018.01.20)