【写真1】ニコンD3sに装着された「AF-Sニッコール300mmF4 E PF ED VR」。(画像をクリックすると大きく見られます)
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【写真2】専用フードを装着した状態。レンズ鏡胴は、ニコン独自のつや消し黒色エンジニアプラスチックで仕上げられています。手で触ってもヒャッとくることはありません。(画像をクリックすると大きく見られます)
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【写真3】従来製品の「AI AF-Sニッコール300mmF4D IF-ED」との大きさ比較。VRを組み込んでの寸法だから、回折格子レンズ組み込みの効果絶大といえるでしょう。(画像をクリックすると大きく見られます)
【写真4】レンズ鏡胴基部横には、フォーカス方式の選択、AFリミッター、ノーマル・スポーツモードへの切り替え用VRスイッチなどがあります。(画像をクリックすると大きく見られます)
「AF-Sニッコール300mmF4 E PF ED VR」【写真1・2】が発売されたのは2015年1月29日のことでした。さっそくと注文を入れたのですが、さっぱりお店に入荷してこないのです。すでに3か月待ちとか噂される中、ニコンは生産が追い付かないという異例のニュースレリーズを流すなど、単なるうわさの範囲ではなかったのです。その後、めでたく入手できたのですが、300mmの単焦点レンズといえば望遠で、しかもPFとなれば高価で特殊に属するので、ニコンとしては生産を増強するにしても、どこまでこの需要が続くのか予想できないから、とりあえずは品薄状態を続け、やがて落ちつくことになるのでしょう。
そこでなぜ人気なのか考えてみました。ニコンによると、従来製品の「AI AF-Sニッコール300mmF4D IF-ED」と比較すると、長さで約75mm、最大径は約1mm短縮し、質量(重さ)で約42%の減、約545g軽量化を実現しているというのです。これは回折格子と通常のガラスレンズを組み合わせることで、回折格子レンズの強力な色消し効果によって、レンズ自体の薄肉化や比重の小さい硝材の使用が可能となり、レンズの軽量化が可能になったというのです。このうち最も大きいのが長さと、それに伴う質量の減少ですが、そこで新旧の外観を比べたのが【写真3】です。
このほか、4.5段分の手ブレ補正効果を発揮する「ノーマルVRモード」に加え、スポーツなど動きの激しい被写体に有効な「スポーツVRモード」【写真4】を搭載していて、幅広い手持ち撮影が可能だというのです。旧タイプレンズには手ブレ補正機構のVRがないので、手ブレ補正を組み込んで最大径1mm増というのは立派なものです。ちなみにAF-Sニッコール300mmF4 E PF ED VRには、三脚座がないのです。つまり手持ち撮影を前提とした望遠レンズだというわけです。ただし、どうしても三脚に取付けて使いたいときには、別売の三脚座RT-1を使うことにもなりますが、実際はボディ側を直接三脚に装着すればよいということになります。これもレンズが小型・軽量であるから可能となるのでしょう。
なお、今回の作例中、VR・ONで三脚使用という場面がいくつかありますが、デジタルの望遠撮影においては、かなり頑丈な三脚に載せてもブレは止まらないという近年の実体験から、特に望遠系では厳密には三脚使用でもVR・ONのほうがよいとだろうと思っていたのです。そこで、複数の実写例でVRのON/OFFを比較検討した結果、三脚使用時でもVR-ONのほうがブレの影響が少ないという効果が確認できたので、途中からVR・ONで積極的に三脚を使おうと決めた結果です。ただし、このような効果を確認したのは今回の300mmF4 PF VRだけで、他のニッコールレンズや他社の手ブレ補正機構付レンズやボディでは検証していませんので、このような撮影法があてはまるかは不明です。
【写真5】光学系としてのPFレンズは、外観からどのようになっているのだろうかと光源と角度を変えたところ、うっすらと円弧を描いた条線を見ることができましたが、撮影するのには苦労しました。(画像をクリックすると大きく見られます)
●なぜ、いま回折格子レンズなのか
回折格子技術を利用した一眼レフ用の交換レンズということでは、キヤノンが2001年に「キヤノンEF400mm F4 DO IS USM」を、2004年に
「キヤノンEF70-300mmF4-5.6 DO IS USM」をだしていました。そして10年ぶりのリニューアルモデルとして2014年11月に「キヤノンEF400mm F4 DO IS II USM」が発売されたところに、今年2015年1月にニコンから「AF-Sニッコール300mmF4 E PF ED VR」が発売されたのです。どちらも回折格子光学系を応用したのですが、そこでなぜ、この時期にキヤノンもニコンも申し合わせたように回折格子レンズなのかということです。その回折格子とはどのようなものなのでしょうか。ニコン300mmF4 PFの外観から回折格子はどのように見えるのだろうかと光源と角度を変えたところ、うっすらと弧を描いた条線を見ることができ、どうにか写真に写したのが【写真5】です。
ユーザーレベルの勘繰りとしては、パテントの関係かなどとも思い、その方面の識者に聞いてみるとそうではないというのです。そこであれこれ考えた結果が、デジタルカメラとの関連だと思うようになりました。
通常の屈折光学系に対し、回折格子光学系と屈折光学系とを組み合わせたのが両社のレンズですが、そのメリットは、通常いわれている色収差の発生が少なく、小型・軽量というのですが、キヤノンが最初にDOレンズを発売した2001年のタイミングは、翌2002年にフィルムカメラとデジタルカメラの生産が数量・金額とも逆転した時期でもあるのです。
つまり本格的なデジタル一眼レフ時代の登場と相まって回折格子レンズが登場してきたのです。歴史的に見ると、やはりニコンも2004年にはクールピクス8400用に『TC-E3PF Phase Fresnel lens.』という3倍のフロントコンバーターレンズをだしていましたが、やはり登場のタイミングとしてはデジタルの時代到来そのものの時期でした。