■さまざまな場面で撮影してみました
いくら実写とはいえ、いろいろと試しても実際の撮影場面でどのように写るかが大切で、そこの部分を見てみましょう。ここまでは、それぞれ所有者さんの使い方を踏襲しましたが、私の撮影場面では基本的にはフードは使うけれど、フィルターは付けないという主義なのです。これはいつもそうかといわれると困りますが原則的にはそのようにしています。
≪写真19≫刻版ズミルックスM35mmF1.4、丸形フード付き、フィルターなし、絞り開放(画像をクリックすると画素等倍にして見られます)
●復刻版ズミルックスの描写
≪写真19≫復刻版ズミルックスM35mmF1.4、丸形フード付き、フィルターなし、絞り開放。 F1.4・1/3200秒、ISO-Auto200、ピントは正確を期するために最大限拡大して三脚に載せて画面中央のドアノブに合わせています。ボディはニコンZ7(M11ボディに大きなホコリが付いてしまい取れなかったので)。STさんのいうように確かに空の部分は黒く落ち込んでいますので、一見してフードによる周辺光のケラレのようにも見えますがビネッティングによる周辺光量の低下と考えました。
ライカカメラ社のニュースリリースによると『200g程の軽量さを一貫して維持し続けたことも特長のひとつといえるでしょう。何よりも特筆すべきは、その優れた描写性能と独特の表現です。絞り開放で撮影すればうっとりするようなやわらかいボケ味が得られます。そのボケ味はデジタル技術を駆使しても再現することはそう簡単ではありません。ボケの効果が魅力的なあまり、「ライカ ズミルックスM f1.4/35mm」は「True King of Bokeh(ボケの王様)」の異名でも呼ばれています。また、逆光のシーンで絞りを開放にすれば、意図的にレンズフレアを発生させることができ、クリエイティブな表現に活用することが可能です。一方、f2.8まで絞り込めば、きわめてシャープで歪曲収差もない端正な描写が得られます。その描写は現代に求められる高い画質レベルにも十分に達しています』。この撮影距離では確かになるほどの画像で、画面全域にわたって柔らかなボケ描写を示します。
1961年の時代に絞り開放F1.4でほぼ無限遠の撮影をしようとすると、横走行布幕フォーカルプレンシャッターの最高速度1/1000秒では露出オーバーになるので、低感度フィルムを使わなくてはならないことになり、当時の撮影法としては成しえなかったことです。より高速のでる縦走行メタルフォーカルプレンシャッターや撮像素子電子シャッターの搭載により可能になったともいえ、さらにはデジタル時代だからこそ可能なシャッター速度とレンズ最大口径の組み合わせで初めて可能になったといえる露出であり、描写です。
≪写真20≫復刻版ズミルックスM35mmF1.4、丸形フード付き、フィルターなし、絞り開放F5.6(画像をクリックすると画素等倍にして見られます)
≪写真20≫復刻版ズミルックスM35mmF1.4、丸形フード付き、フィルターなし、絞り開放F5.6。F5.6・1/250秒、ISO-Auto200。ピントは正確を期するために最大限拡大して三脚に載せて画面中央のドアノブに合わせています。絞ったせいかシャープさは素晴らしく、周辺減光はほとんど解消されています。Z7
≪写真21≫ 復刻版ズミルックスM35mmF1.4、丸形フード付き、フィルターなし、絞り開放(画像をクリックすると画素等倍にして見られます)
≪写真21≫復刻版ズミルックスM35mmF1.4、丸形フード付き、フィルターなし、絞り開放。 F1.4・1/1600秒、ISO-Auto200。拡大して見るとわかりますが、中央部の横濱市瓦斯局の文字はシャープで立体的に描出されています。近距離だからでしょうか周辺部光量の落ち込みもまったく気になりません。Z7
≪写真22≫復刻版ズミルックスM35mmF1.4、丸形フード付き、フィルターなし、絞り開放(画像をクリックすると画素等倍にして見られます)
≪写真22≫復刻版ズミルックスM35mmF1.4、丸形フード付き、フィルターなし、絞り開放。 F1.4・1/100秒、ISO-Auto720。画面中央の中ほどにある軸受け部分にピントを合わせていますが、前後の光沢ある金属部分のボケ具合も乱れはなく良い感じで描出されています。Z7
≪写真23≫復刻版ズミルックスM35mmF1.4、丸形フード付き、フィルターなし、絞り開放(画像をクリックすると画素等倍にして見られます)
≪写真23≫復刻版ズミルックスM35mmF1.4、丸形フード付き、フィルターなし、絞り開放。 F1.4・1/100秒、ISO-Auto250。画面中央下にある椅子の手すりにピントを合わせてありますが、背後のボケの感じは良好です。Z7
≪写真24≫復刻版ズミルックスM35mmF1.4、丸形フード付き、フィルターなし、絞りF2.8(画像をクリックすると画素等倍にして見られます)
≪写真24≫復刻版ズミルックスM35mmF1.4、丸形フード付き、フィルターなし、絞りF2.8。F2.8・1/3200秒、ISO200。一番左上には、葉のないケヤキの枝を写し込んでいますが、最端部までケヤキの枝が写り込んでいるのが確認できるわけですから、減光は認められても物理的なケラレは見られません。Z7
≪写真25≫ 復刻版ズミルックスM35mmF1.4、丸形フード付き、フィルターなし、絞り開放(画像をクリックすると画素等倍にして見られます)
≪写真25≫復刻版ズミルックスM35mmF1.4、丸形フード付き、フィルターなし、絞り開放。写真家兼本玲二さん。F1.4・1/100秒、ISO280。背面壁面が白かったために、撮影時は顔がアンダーになりましたが、掲載時にはトーンカーブを持ち上げて少し見えるようにしました。壁面の照明が作品主体であり均一感はありますが、下の隅部の落ち込みは上部より大きく感じるのはそのためでしょう。Z7
≪写真26≫復刻版ズミルックスM35mmF1.4、丸形フード付き、フィルターなし、絞り開放(画像をクリックすると画素等倍にして見られます)
≪写真26≫復刻版ズミルックスM35mmF1.4、丸形フード付き、フィルターなし、絞り開放。F1.4・1/100秒、ISO-Auto280、+1EV。LEDによるクリスマスイルミネーションを撮影しましたが、手前の時計台のポールにピントを合わせてみました。画面下部と対角位置にはコマ収差が発生していますが、焦点距離とF1.4という大口径であることなどを考え、フォーカス位置などを考慮すると、さほど大きなコマ収差であるとは感じません。Z7。
≪写真27≫第1世代ズミルックス35mmF1.4:絞りF5.6・1/1000秒、ISO-Auto100、ILCE-7RM4、小判型フード、フィルターなし、TECHART LM-EA7使用でAF撮影(画像をクリックすると画素等倍にして見られます)
●第1世代ズミルックス35mmF1.4で撮ってみました
結局手元には短時間でしたが、第1世代ズミルックス35mmF1.4もありましたので、何カットか紹介しましょう。
≪写真27≫第1世代ズミルックス35mmF1.4:絞りF5.6・1/1000秒、ISO-Auto100、ILCE-7RM4、小判型フード、フィルターなし、TECHART LM-EA7使用でAF撮影。
晴天下の川縁を撮影しましたが岩板と小石の質感、さらには静かに流れる川の水も精緻に描写されていますが、やはりこのような場面ではもう少し絞り込みたいです。なお少なくともこの場面では、周辺光量の落ち込みは無視できる範囲です。
≪写真28≫第1世代ズミルックス35mmF1.4:絞りF2.8・1/1250秒、ISO100-Auto、ILCE-7RM4、小判型フード、フィルターなし、TECHART LM-EA7使用でAF撮影(画像をクリックすると画素等倍にして見られます)
≪写真28≫第1世代ズミルックス35mmF1.4:絞りF2.8・1/1250秒、ISO100-Auto、ILCE-7RM4、小判型フード、フィルターなし、TECHART LM-EA7使用でAF撮影。線路際にいたら列車が走ってきましたので、シャッターを押しました。車両と架線の直線性などは気持ちよく、歪曲は感じさせません。前カット同様もっと絞り込んだほうがよいでしょう。
≪写真29≫第1世代ズミルックス35mmF1.4:絞りF2.8・1/1000秒、ISO-Auto100、ILCE-7RM4、小判型フード、フィルターなし、TECHART LM-EA7使用でAF撮影(画像をクリックすると画素等倍にして見られます)
≪写真29≫第1世代ズミルックス35mmF1.4:絞りF2.8・1/1000秒、ISO-Auto100、ILCE-7RM4、小判型フード、フィルターなし、TECHART LM-EA7使用でAF撮影。古い木造の建物を見つけましたのでシャッターを切りました。感じからすると、病院か役所の出張所でしょうか。木の壁のペンキのハゲ具合など細かな質感をしっかりだすためにはもう3段階ほど絞り込みたいです。
≪写真30≫第1世代ズミルックス35mmF1.4:絞りF2.8・1/1000秒、ISO-Auto100、ILCE-7RM4、小判型フード、フィルターなし、TECHART LM-EA7使用でAF撮影(画像をクリックすると画素等倍にして見られます)
≪写真30≫第1世代ズミルックス35mmF1.4:絞りF1.4開放・1/640秒、ISO-Auto800、小判型フード、フィルターなし、ILCE-7RM4、TECHART LM-EA7使用でAF撮影。 蕎麦屋さんの駐車場に複数あった丸い球体に近いフグ(鳥かも?)の広告塔で、そのうちの1体。ただただ面白かったからシャッターを切りました。
≪写真31≫第1世代ズミルックス35mmF1.4:絞りF1.4開放・1/200秒、ISO-Auto100、小判型フード、フィルターなし、ILCE-7RM4、TECHART LM-EA7使用でAF撮影(画像をクリックすると画素等倍にして見られます)
≪写真31≫第1世代ズミルックス35mmF1.4:絞りF1.4開放・1/200秒、ISO-Auto100。小判型フード、フィルターなし、ILCE-7RM4、TECHART LM-EA7使用でAF撮影。つり橋の上の LEDランプのトンネル。球面収差の発生の具合がわかりますが、LEDランプは透明のチューブの中に入っているので点光源から発する状態とは若干異なるかもしれません。
≪写真32≫ 第1世代ズミルックス35mmF1.4:絞りF2.8・1/1500秒、ISO-Auto160、39→41Φフィルター、小判型フード、ライカM9(画像をクリックすると画素等倍にして見られます)
≪写真32≫第1世代ズミルックス35mmF1.4:絞りF2.8・1/1500秒、ISO-Auto160。小判型フード、ライカM9。 耐震強化工事を終えたビルの前壁面ですが、目がくらくらするような気がするのは。私だけでしょうか。久しぶりに引っ張りだして使ったM9ですが、空の発色はライカの他機種でも同じ感じで、CCDならではのものか、コダックの撮像素子、ライカカメラ社の色づくりに起因するのかはわかりませんが、CMOSを使ったM(Type240)やM11とも一味違う発色です。
■第2世代ズミルックスとも比較してみました
実は、STさんが第1世代ズミルックスを探してくる前に、私自身もどうしてもと探していたら意外と身近に第2世代ズミルックス(1990年、ライカ銘)を持っている方というか、日常的に使っている方を思い出しました。さっそく打ち合わせて、両者でそれぞれのズミルックスを持ち寄りお互いに試すことになりました。所有者はライカ愛好家では知る人ぞ知る近重幸哉さんです。近重さんと知り合ったのはライカを介してで、ジャーナリストですが写真家ではありませんし、コレクターでもありません。ただ、かなり早い時期にドイツの旧エルンスト ライツ社の本拠地であるウエッツラーをご自身で訪れエルンスト・ライツ家のお墓参りに行ったり、ライカに対する情熱と使いこなしには素晴らしいものがあります。
待合わせ場所は墨田区押上にある「寫眞喫茶アウラ舎」というレンタル暗室兼ギャラリーカフェで、いかにもライカ使いやフィルムカメラファンが集う場所です。開店の3時に入店してしばらくは近重さんと私だけというわけで、店内でいろいろ撮影させてもらいました。奇遇なことにオーナーの大島宗久さんは東京工芸大学写真学科の卒業生で、私が一時期非常勤講師をしていた時に習ったというのです。若い人が写真で頑張るのは素晴らしいし、私の名前を覚えていてくれたというのもうれしい限りです。撮影は、近重さんがライカM10、私がニコンZ7でというわけで、それぞれがレンズを交換し合い店内でさまざまなアングルと絞りを変化させて撮影しました。結果は以下ですが、必要最低限ということで、絞り開放の私のポートレイトです。
≪写真33≫復刻版ズミルックス35mmF1.4:絞りF1.4開放・1/90秒、ISO800、丸型フード、フィルターなし、ライカM10(画像をクリックすると画素等倍にして見られます)
≪写真33≫復刻版ズミルックス35mmF1.4:絞りF1.4開放・1/90秒、ISO800、丸型フード、フィルターなし、ライカM10。絞り開放でも素晴らしい解像感があり、無限遠に近いレンガ作りのガスミュージアム館のフレアッぽい描写とはまったく違うシャープな描写です。前後のボケ具合もクセもなく自然です。4隅を見るとビネッティングの影響はなく減光はしていません。これはフォーカシングにより全玉が前側に繰り出されるため事実上画角が狭くなったためだと考えられます。さまざまな場面で試しましたが、色調は復刻版のほうがわずかにクリアで鮮やかな感じです。これは1961年と現代の硝材の違い、コーティングの違い、経年変化などによるのでしょうが、好みの範囲内です。撮影は近重さん。
≪写真34≫ 第2世代ズミルックス35mmF1.4:絞りF1.4開放・1/90秒、ISO800、丸型フード、フィルターなし、ライカM10(画像をクリックすると画素等倍にして見られます)
≪写真34≫第2世代ズミルックス35mmF1.4:絞りF1.4開放・1/90秒、ISO800、丸型フード、フィルターなし、ライカM10。一目見てわかるのは、復刻版に比べて色調がわずかに渋いというか彩度の低い描写を示します。この辺りはコーティングの違いからくるのでしょうが、十分に好みの範囲であり、デジタル、フィルムとも補正可能な範囲内といえるでしょう。解像感、ボケ具合、周辺の描写は絞り開放でも素晴らしく、復刻版も第2世代も大きく変わることはありません。撮影は近重さん。
≪写真35≫第2世代ズミルックス35mmF1.4:絞りF1.4開放・1/80秒、ISO800、丸型フード、フィルターなし、M10(画像をクリックすると画素等倍にして見られます)
≪写真35≫第2世代ズミルックス35mmF1.4:絞りF1.4開放・1/80秒、ISO800、丸型フード、フィルターなし、M10。アウラ舎 大島宗久さん。大島さんの目にピントを合わせての撮影ですが、前景に大きくボケを含むように配置されたコーヒーの器具類、背後のボケを含めて自然です。撮影は近重さん。
≪写真36≫ 復刻版ズミルックス35mmF1.4:絞りF1.4開放・1/90秒、ISO-Auto800、丸型フード、フィルターなし、Z7(画像をクリックすると画素等倍にして見られます)
≪写真36≫復刻版ズミルックス35mmF1.4:絞りF1.4開放・1/90秒、ISO-Auto800、丸型フード、フィルターなし、Z7。 やはり復刻版のほうがわずかに色鮮やかに写るようです。
≪写真37≫第2世代ズミルックス35mmF1.4:絞りF1.4開放・1/90秒、ISO-Auto800、丸型フード、フィルターなし、Z7(画像をクリックすると画素等倍にして見られます)
≪写真37≫第2世代ズミルックス35mmF1.4:絞りF1.4開放・1/90秒、ISO-Auto800、丸型フード、フィルターなし、Z7。 色調のわずかな違いのほかは、画質は甲乙つけがたいです。
近重さんは、フィルム時代のM4からデジタルのM10まで、第2世代ズミルックス35mmF1.4につねにシリーズ札侫ルターを付け、純正の丸形フィルターを装着ているそうですが、画面周辺にケラレが生じるとはまったく感じないそうです。