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市川泰憲(写真技術研究家、日本カメラ博物館)

  市川 泰憲(いちかわ やすのり)
1947年東京生まれ。中学・高校・大学と写真部に所属。1970年東海大学工学部光学工学科卒業。同年写真工業出版社入社、月刊「写真工業」編集長を経て、2009年より日本カメラ博物館に勤務しながら幅広い写真活動を続ける。日本写真学会会員

■ブログ「写真にこだわる」移りました
https://ilovephoto.hatenablog.com/

第五十六回「最初期ズームニッコール・ヨンサンハチロクの実力」
 最近は時代なのでしょうか、どのレンズもカメラもよく写るのです。それだけに写真の楽しみ方も多様化していて、私の周りを見渡すと、普通に写るだけではつまらないとさまざまな描写を求めて、オールドレンズや古典印画法を楽しんだり、銀塩フィルムにこだわったりと、その向かっている方向はそれぞれなのです。


≪写真1≫NIKKOREX ZOOM 35(1963)(画像をクリックすると大きくして見られます)

 さて過日レンズ愛好仲間と話し合っているときに、もっと描写のぐちゃぐちゃになるレンズはないだろうかとなったのです。そのとき、私が思いついたのはきわめて初期のズームレンズ「ZOOM NIKKOR 43~86mmF3.5」なのです。このレンズはニコンFマウントで1963(昭和38)年の発売なのですが、当時高校生だった私は、やはりカメラ好きの仲間とカメラ雑誌を読んで、いまひとつの描写をするレンズだと話し合っていたとことを思い出したのです。それに加え、たまたまわが家にはカメラいじりが好きだった義父が残した『NIKKOREX ZOOM 35』(写真1)があるのです。このボディ、さんざんいじくりまわしたようで、外観はどうにか保っていますがカメラとしては機能しないのです。
 そこで、このボディについている「ZOOM NIKKOR AUTO 43~86mmF3.5」を取り外して、最新のミラーレス機に使ってみようと考えたのです。このニコレックスズーム35に装備されている 43~86mmF3.5ズームは、ニコンFマウント用レンズとして発売される同年の少し前に発売されているのです。つまり、日本光学工業の発売する「ヨンサンハチロクズーム」としては、最初期のタイプだということになるのです。



≪写真2≫ニコレックスズーム35発売の予告広告(画像をクリックすると大きくして見られます)

 ニコレックスズーム35は、1962年に発売された「ニコレックス35供廚 43~86mmF3.5ズームレンズを組込んだという一眼レフなのです。その、35兇料或箸1960年に発売された「ニコレックス35」で、違いはレンズシャッターがシチズンからセイコーシャSLVに変わったということです。その理由としてシャッターの故障が多かったからだと当時は語られていますが、その1年後に「ニコレックスズーム35」が発売されているので、私はズームレンズを組込むための改変だったか、さらには後玉群の口径の細さからすると、当時日本光学はビハインドレンズシャッター式の一眼レフ構想もあったのではないかと推測しました。なお、ニコレックス35と35兇砲話云播世離縫奪魁璽Q50mmF2.5が装備されていました。ちなみにニコレックスズーム35は、レンズシャッター式の一眼レフといっても、ポロプリズムミラーを使った普及タイプで、レンズは固着式であって交換式ではないのです。またファインダーは、シャッターを切ったときに跳ね上がりブラックアウトするため、フィルム巻上げレバーを操作することによりメインミラーは元戻るので、クイックリターン方式ではありません。
 日本光学工業としては、1959年6月に「ニコンF」、1962年6月に「ニコレックスF」、1965年には「ニコマートFT」をレンズ交換式一眼レフとして発売しており、この間にレンズ非交換の一眼レフとしてニコレックス35、ニコレックス35供▲縫灰譽奪スズーム35を発売しているので、短期間に一眼レフの分野を一気に拡大しようとしていたかがよくわかります。結果として、後の時代に残ったのはレンズ交換式の「ニコンFシリーズ」と「ニコマートシリーズ」であることは歴史の流れですが、当時の予告広告(写真2)を見てお分かりのように、8ミリシネの「ニコンズーム8」が上段に配置されているので、この時期、日本光学としてはシネの分野にも意欲を持っていたのがわかります。ニコレックスZoom35のOは、なんと9個も羅列されています。やはり、ズーーーーームなのですね。



●43~86mmF3.5ズームの光学系
 ヨンサンハチロクは、光学系として3群9枚構成ですが、距離リングは前玉回転式で回転角は約140°で、最短撮影距離は1.2mです。今日のレンズと比較するとかなり最短撮影距離が遠いのは、時代ということになるのでしょう。


≪写真3≫43~86mmF3.5ズームの光学系とニコレックスズーム35のレンズ周りの機構(画像をクリックすると大きくして見られます)

写真3には43~86mmF3.5ズームの光学系とニコレックスズーム35のレンズ周りの機構を月刊「写真工業」1963年3月号の中村重弥氏記事より転載しました。写真の左側に示すのはニコレックスズーム35のレンズ鏡筒部分外観の透視とレンズ構成ですが、レンズは3群9枚構成のうち、ズーミングによってL2第2の固定部分を挟んで第1群L1と第3群L3が一定の間隔をもって移動し、第1群L1はズーミングとフォーカシングに関係し、第3群L3はズーミングだけに関係するとされています。これらは微細に加工された金属製のカム溝によって行われ、ズーミングによるF値変動も絞り羽根が細かく制御されるのです。かつてズームレンズは、光学補正方式と機械補正方式とに大きく分類されていて、ズーミングにより焦点変動がなく開放F値も変わらないのがズームレンズだと呼ばれていましたが、カメラにAEやAF技術が導入されることにより、F値が変動したり、焦点移動があるバリフォーカルレンズでもズームレンズと呼ばれるようになりました。ということで、ヨンサンハチロクは正に本物のズームレンズなのです。


写真4にはレンズ部分を分解した状態、写真5にはレンズシャッターと絞り羽根部分を示しました。シャッターはセイコーSLV、B.1~1/500秒。写真左の上部の棒上のレバーは上の図面と照合させてみると働きがわかります。

≪写真4≫レンズシャッター部分を分解(画像をクリックすると大きくして見られます)

≪写真5≫レンズシャッターと絞り羽根(画像をクリックすると大きくして見られます)




≪写真6≫左は、カム溝と絞りリング、右はライカMマウントにした後部(画像をクリックすると大きくして見られます)

 写真6の左は、カム溝と絞りリング、右はライカMマウントにした後部。カム溝は真鍮、金属そのものです。レンズ部分は筒のような中に納まっていて、後玉であるL3群はいがいと口径が小さく感じます。



≪写真7≫レンズ部分を取外されたニコレックス ズーム35ボディ(画像をクリックすると大きくして見られます)

 写真7は、レンズ部分を取外されたニコレックス ズーム35ボディ。各部品はブロックごとに小袋に入れられており、その気になれば復元も可能です(笑)。



●ライカMマウントに換装したわけ
 レンズを外すことはできましたが、最新のミラーレス機で使うためには新しいマウントを決めなくてはなりません。ニコレックスズーム35のレンズを外し、ミラーレス機に使えるようにするとFaceBookの「NIPPON KOUGAKU」というサイトでつぶやいてみたら、アメリカのニコンマニアの方から、やめなさい20ドルもだせば買えるのだからと忠告されましたが、そこはFマウントより先行発売のヨンサンハチロクズームの描写を試してみたいという、ことでわざわざこのような遠回りをしたのです。
 マウントはライカのMマウントにしました。実写にあたっては、今回はニコンに敬意を表して、ニコンZ7のボディを使いましたが、ライカMマウントにすれば、ユニバーサルマウント的に使え、使用ボディの幅も広がりますし、レンズの購入も少なくてすむのです。



≪写真8≫ライカM→ニコンZマウントアダプターと換装された43~86mmF3.5ズーム(画像をクリックすると大きくして見られます)

 写真8には、ライカM→ニコンZマウントアダプターと換装された「43~86mmF3.5ズームレンズ」を示しました。



≪写真9≫ボディに装着したヨンサンハチロク(画像をクリックすると大きくして見られます)

 写真9はボディに装着したヨンサンハチロクズームです。実写にあたってはステップアップリングを6段重ねてレンズフードとしました。マウントアダプターはレンズとボディカラーに合わせてブラック仕上げにしましたが、Tと刻まれた文字はTamronでなく、TTartisanです。ちなみに私は現在、ニコンZのほかに、ソニーE、キヤノンR、ライカL(シグマ、パナソニック)、マイクロ4/3のボディを手元に置いて、状況に応じて使い分けています。



●さまざまな場所で撮影してみました

≪写真10≫いつもの英国大使館正面玄関(画像をクリックすると大きくして見られます)

 写真10は、いつもの英国大使館正面玄関です。撮影時の焦点距離:43mm。絞りF5.6・1/3200秒、ISO-Auto200。このシーンでは、晴天時の午前10時ごろに、通常は焦点距離35mm、絞りF5.6で撮影するようにしていますが、ピントは屋根の直下にあるエンブレムに合わせています。さて、この画像がどのくらいかというと難しく、ここに掲載してある写真からは周辺光量の落込みは読取れても、画像の乱れというか、崩れまでは判断できません。このあたりは、このレポートの最後に記すことにします。



≪写真11≫天体望遠鏡を模したモニュメント(機法焚菫をクリックすると大きくして見られます)

 写真11は、天体望遠鏡を模したモニュメント(機砲任后焦点距離:43mm。F3.5・1/100秒、ISO-Auto200、+0.7EV、手持ち撮影。薄曇りの青空でしたが、望遠鏡の脇にある丸いハンドルの中央にピントを合わせました。狙いとしては、望遠鏡の写り具合を見ると同時に、背後にある木漏れ日のアウトフォーカス部がどのような描写をするかが注目点でしたが、望遠鏡、木漏れ日の描写ともまずまずで、絞り開放とは思えないです。基本的にズームレンズですから、背後のボケ具合は周辺にいっても極端な破綻はありません。マニュアルフォーカスですが、画像を最大限拡大してピントを合わせるのが使い方のコツ。目で見るとぶらぶらとぶれている感じですが、ボディ側の手振れ補正機構が効いてきれいに止まって写っています。このときは雨が降ってきたので退散。群馬嬬恋・愛妻の丘にて。



≪写真12≫天体望遠鏡を模したモニュメント(供法焚菫をクリックすると大きくして見られます)

 写真12は、天体望遠鏡を模したモニュメント(供砲任后焦点距離:43mm。F5.6・1/250秒、ISO-Auto200、手持ち撮影。前日は雨のために早々に退散しましたが、再度翌朝撮影に挑戦。みごとな青空とともに、わずかに絞り込んだことと順光であったことから、みごとな質感と解像感です。わずかな絞り込みと天候がよかったので素晴らしくよく写ってます。群馬嬬恋、愛妻の丘にて。



≪写真13≫風見鶏を模したモニュメント(機法焚菫をクリックすると大きくして見られます)

 写真13は風見鶏を模したモニュメント(機砲任后焦点距離:86mm。F3.5・1/160秒、ISO-Auto200。最望遠位置で、写真11の望遠鏡とほぼ同じ時間帯に撮影しましたが、位置としては180°後ろを向いた場所で順光なのですが、絞りはF3.5と開放ためでしょうか、シャープさがなく画面全体的にフレアがかかっているのが気になります。三脚でも立ててしっかりと固定し、じっくりとピントを合わせて撮影できればよいのですが。群馬嬬恋、愛妻の丘にて。



≪写真14≫風見鶏を模したモニュメント(供法焚菫をクリックすると大きくして見られます)

 写真14は、風見鶏を模したモニュメント(供砲如⊆命13と同じ被写体ですが、翌日の天候の違いによってみごとに描写も異なります。焦点距離:86mm。F3.5・1/800秒、ISO-Auto200、手持ち撮影。前日は雨のために早々に退散しましたが、再度翌朝撮影に挑戦した成果といえばそれまでですが、それだけ写真は天候によって左右されるという好例です。また背後の木漏れ日のボケ具合は、平面的な被写体では見えてこない部分ですが、良し悪しは好みの問題でしょうが、昨今の風潮からすると好まれるボケ味といえます。群馬嬬恋、愛妻の丘にて。



≪写真15≫宿泊施設のロビー(機法焚菫をクリックすると大きくして見られます)

 写真15は、宿泊施設のロビー(機法焦点距離:43mm。F3.5・1/100秒、ISO-Auto400、キャベツを模した小さな薄いグリーンのボールを付けたツリーにピントを合わせて背後のボケ具合を見てみました。実に自然なボケです。四隅の減光が目につきますが、レンズの問題と天井からの照明ランプにより引っ張られ露出は全体的にアンダーに仕上がったと考えられ、減光も気になるほどではありません。



≪写真16≫宿泊施設のロビー(供法焚菫をクリックすると大きくして見られます)

 写真16は、宿泊施設のロビー(供法焦点距離:60mm。F3.5・1/100秒、ISO-Auto4500、焦点距離約60mmで、最短撮影距離の1.2mの位置に花を置いて開放撮影です。撮影光学系の影響で4辺が減光しているのがわかりますが、中心からわずかに外した花の解像は拡大率にもよりますが、まずまずの感じです。



≪写真17≫宿泊施設の庭に設置された籠(画像をクリックすると大きくして見られます)

 写真17は、チェックアウト後の宿泊施設の庭に設置された籠です。焦点距離:43mm。F3.5・1/250秒、ISO-Auto200。籠といっても中には椅子が置いてあり、芝生の向こうに見える山々を望むようになっています。ピントは籠の手前中央に合わせてみましたが、みごとな解像性能と芝目から見るとボケ具合もそれほど乱れていません。やはりズームレンズならではの描写特性です。ただ気になるのは、撮影した画像がうっすらと濁ったようなベールに包まれているのです。このようなときにはレタッチソフトのレベル補正をかけるとガラッと1発ですっきりすることもあるので、補正をかけて効果を試してみるのも大切です。これは、たぶんコーティングに関係しているのではとひそかに前から考えていましたが、レンズのコーティングが古いからということではなく、最新のレンズにもときとしてみられる現象です。



≪写真18≫愛妻の丘モニュメント。焦点距離50mm・絞りF11(画像をクリックすると大きくして見られます)

 写真18は、愛妻の丘モニュメントです。焦点距離:50mm。絞りF11・1/1600秒、ISO-Auto200。この時代のレンズ全体(ある意味現在も)に通じることですが、当時のヨンサンハチロクレンズのテストレポートを読んでみると、F11で最高の解像度を示し、F16まで絞ると回折現象の影響で解像が低下するということと、解像力は広角側も望遠側も大きく変わらないというように評価されています。このような描写傾向は、いつの時代のどのレンズも同じようなもので、どのあたりの絞り値で高解像になるか、画面全体がどこまで絞るとムラなく高解像になるかなど、解像力がポイントとなりますが、この場ではあえてそこを狙ってF11に絞って撮影してみました。ご覧のように立派な描写です。



≪写真19≫妻恋のキャベツ畑(機法焚菫をクリックすると大きくして見られます)

 写真19は、妻恋のキャベツ畑(機砲任后焦点距離:43mm。F8・1/500秒、ISO-Auto200、少し小高い所から無限遠の描写を狙ってみました。周辺光量の落ち込みもなく、4辺まできれいに描写されています。このあたりがレンズ描写特性を語るときの難しさといえます。なお、光学系としてはミラーレス機で∞がでるようにと、ピントはオーバーインフになるようにあらかじめ設定されています。



≪写真20≫妻恋のキャベツ畑(供法焚菫をクリックすると大きくして見られます)

 写真20は、妻恋のキャベツ畑(供砲任后焦点距:43mm。F3.5・1/400秒、ISO-Auto200。同じ焦点距離でもあえて絞りF3.5開放で一番手前のキャベツにピントを合わせています。背景の樹木、キャベツがボケていることから、手前のキャベツが強調されるようにと狙いました。周辺光量の落込みは認知できますが、太陽の位置などから右と左では異なって写りますが、このような現象はこのヨンサンハチロクだけではなく、すべての広角系レンズに見られる現象です。



≪写真21≫恐竜のいるラーメン屋さん(画像をクリックすると大きくして見られます)

 写真21は、恐竜のいるラーメン屋さんです。焦点距離:43mm。F5.6・1/500秒、ISO-Auto200。長野県上田市の国道144号線沿いに大きな恐竜を置いてあるラーメン屋さんがあります。店主曰く、夕方から夜中に営業するそうですが、夕食をしそこなったサラリーマンが入ってくるそうです。この日はあいにく昼間でまだ営業していませんでしたが、青空と恐竜のコンビネーションが最高でした。恐竜の開いた口の先にトンボが飛んでいるのがわかりますか。それにしても素晴らしい描写です。



≪写真22≫ワイド端とテレ端の歪曲収差(画像をクリックすると大きくして見られます)

 写真22は、ワイド端とテレ端の歪曲収差を見てみました。ズームレンズには歪曲収差はつきものです。ましてはこのヨンサンハチロクズームは、きわめて初期のワイド域を含むレンズだからそれなりの歪曲はあっても問題ないのですが、どんな具合かと撮影してみました。歪曲収差は、像面湾曲やコマ収差などと異なり、絞り込んでも軽減されるということはありません。そこでなるべくシャープに写るようにとF11に絞って撮影しました。もちろん撮影距離によっても異なるものでしょうが、撮影距離約1.5mで、いわゆるワイド側43mmで樽型(マイナス)収差、テレ側86mmで糸巻き型(プラス)収差となり、きわめて教科書的な写りとなりました。



●デジタル時代のレンズ評価に思うこと
 今回ZOOM NIKKOR 43~86mmF3.5を使って感じたことは、限られた環境と被写体では素晴らしくよく写るということで、60年前にすり込まれたレンズへの評価が、ある意味、みごとに現代の実写で簡単にひっくり返ってしまったのです。それだけその時代のレンズが悪かったかというとそれだけではなく、考えられることは、写真鑑賞時の拡大率と、技術的にその時代のカメラのフォーカシング機構・精度にも難点があったのではないかと思うのです。
 たとえば、マニュアルフォーカス時代の85mmF1.4のような中望遠レンズは、一眼レフでも大口径絞り開放のピント合わせ、それも最短撮影距離近くでのピント合わせはかなり至難の業だったのです。これは、ピント合わせに対する経験と熟練を必要としたり、ときにはカメラのコンデションがとかいうこともあったりしたこともありました。さらに最近思うことは、フィルムカメラ時代には、フィルム面そのものの浮動の問題、ファインダー焦点面と実画面位置のズレ、さらにはフィルムの感光面自体に厚みがあり、許容錯乱円、被写界深度という中でのピントと、固体撮像素子のCMOSやCCDのシリコン薄膜に対するピント合わせでは異なるはずで、加えてミラーレス化で撮像面でのピント合わせとなり、実際試してみると、超広角や魚眼レンズで焦点面を拡大して見るとわかるのですが、ピントは1点にしかなく、深度という概念はなくなってきました。もちろん撮影カメラの解像度、プリント出力解像度、鑑賞距離がどのくらいか、などによっても異なるのですが、ミラーレス機時代になってレンズのピント合わせの精度と、要求されるレンズの光学性能はかなり高度になってきたことは事実だと思うのです。
 その点において、写真をどのように使うかによっても大きく変わります。たとえば、フィルムカメラの時代一般的な引伸ばしプリントは、8×10インチ判か、四切判が画質評価時の基準でしたが、デジタルの時代になるとA3ノビが画質判断の基準になると、私は思っています。また、撮影レンズの解像力とイメージャー(CMOS、フィルム)の解像力とプリンター(出力解像度、引伸しレンズ解像度)、鑑賞者の視力などが総合的に効いてくるのです。したがって、このここでは画素等倍まで見えるようにしてアップしていますが、倍率をあげて見ると、画質がすごいとなるのです。以下には、最初の英国大使館の作例(写真10)のエンブレム部分と最も解像している部分を画素等倍にまで拡大してみるとその差は歴然です。ちなみにニコンZ7の有効画素数は4,575万画素で、フィルムカメラのライカ判画素数はデジタル直前の時期で1,200万画素相当とされていましたので、CMOSイメージャーのほうが4倍近く解像が高いため、画素等倍画像もそれだけ拡大されているために、厳しい画像となっているわけです。
 交換レンズのヨンサンハチロクズームは、1963年に発売が開始されてから2024年で61年になるのですから、今回の試写を見るとやはり技術の進歩は素晴らしいということになるのです。私の「写真にこだわる」のブログでは、いままでに新しいカメラがでるとそれに付随したレンズで英国大使館を撮り、ある時期までは画素等倍の画像も併載していましたが、ある時から各社製品とも画素等倍でもよく写り、大きく変わらでないということですが、それだけ時代を経てレンズの画質が全体的に向上していたわけです。気になる方は、本記事のバックナンバーを探してみてください。レンズ技術の進歩に驚くことでしょう。
 ある時期まで日本におけるレンズ評価は、解像力やテストチャートでの評価が主体でしたが、カメラがミラーレスになり、カメラ側の不確定要素が極端に少なくなったことによりレンズそのものを直視することができるようになった気がします。もし60年前に自分自身でヨンサンハチロクズームを使っていたら少しは考え方も違っていたとも思うのです。レンズの評価は数値評価だけでは表せないということを改めて感じるとともに、自分で使ってみないということを改めて実感しました。



≪写真23≫ヨンサンハチロク専用レンズキャップ(画像をクリックすると大きくして見られます)

 写真23は、専用レンズキャップです。これだけの工作を私がやったのかというと、実はそうでなくレンズ好き仲間のHMさんが半年以上かけて仕上げてくれたのです。しかも、おまけに写真に示すような、特製レンズキャップを付けてくれたのです。キャップの内側は黒のラシャで内面反射を防止的?に仕上げてくれたのです。しかも表面は黒く塗装され、さらに「日本光斈」と最初期のロゴマークをプリントしてくれたのです。このキャップ、実はカメラを渡すときに、手元にあったハーゲンダッツアイスクリームカップの蓋で、黒羅紗布の内張は寸法調整も兼ねていたのです。
 このレンズキャップ、海外のニコンファンに受けました。何ごとも遊びのセンスは大切ですね。一時代前でしたら、カメラ本体からレンズを外すと、カメラに対する冒涜だと怒鳴り込まれたのですが、最近はそういうことをいう人はいなくなりましたのが幸いでした。 (^^♪






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